上×一は

□笑顔の裏に
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太陽のように笑う人だと思った。




笑顔の裏に




「三治郎」

誰も居ない廊下で名前を呼ばれた。
その声の主は見なくても分かる。

「竹谷先輩」

とてとて、と竹谷先輩に近づく。
にっこり、と笑う竹谷先輩は目線を合わせるように腰を低くし、頭を撫でてくれた。

「ぼくに何か用ですか?」

小首を傾げながら聞くと、竹谷先輩は笑みを深くして、握っていた手の平を目の前で広げた。

「ほら、これ。お前が欲しがってたヤツ」

覗き込むと、そこには自分が欲しがっていたからくりに使う部品が。
驚いた。

と同時に凄く嬉しかった。

「ぼく、これ欲しいんですよ」

委員会の仕事で用具室に行ったとき、ある道具のぜんまいやらネジやらが凄く気になった。
好奇心に負けて見ていると、段々とその部品を使ったからくりが作りたくなって。

それをこの前、先輩にちょっと話しただけなのに。

それなのに覚えていてくれていたことに、とても胸が高鳴った。

とても嬉しい。

声が出ないほどの喜びってこういうことを言うのかな。

「…っ」

かちゃり、と竹谷先輩はその部品をぼくの手の平に置く。
先輩の手がぼくに触れた。

どき、と胸が鳴った気がした。


「三治郎?」

先輩が顔を覗き込む。
慌てて、お礼を言った。

「これ…、先輩ありがとうございます!」

ぼくは自然と笑顔になる。
顔が熱い。

きっと真っ赤だろうな。

嬉しさと恥ずかしさで涙が出そうになる。
引っ込めるために目をぎゅっと瞑る。

すると、唇に何か当たった気がした。

驚いて、目を開ける。

「!」

先ほどよりも近い竹谷先輩の顔。
でも笑顔なのは変わらなかった。

ぼくもつられて笑った。

先輩の笑顔はまるで太陽みたいだな、とちょっとくさいことを思ってみる。
でも冗談抜きで、そう思う。

竹谷先輩は、ぼくの頭をぽんぽんと叩くと、中腰から立ち上がった。

「じゃーな、三治郎」

そう言って、ちゅ、とぼくの頭にキスをしたんだ。

何が起きたのかぼくはその時分からなかった。
でも、顔が更に熱くなったのは分かった。

「…っ」

竹谷先輩はぼくを見ると満足そうな顔で来た道を引き返していった。

ぼくはその場から長い間動けずにいた。


真っ赤な顔のまま。





end

20080831 執筆
20081001 公開
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