上×一は

□甘い指
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甘くて、甘くて。
ひたすら、甘くて。




甘い指




三治郎に美味しいお菓子を貰ったので食べに来てください、と言われた。

ということで、今三治郎の部屋に向かっているだが…三治郎の同室相手はあの笹山兵太夫だ。
からくり好きで至るところにからくりを作っている、と言われている。


うーん、考えただけで身震いがする。
が、上級生であろう自分が一年生が作るからくりに怯えてどうする。

しかも、日々脱走した毒虫と戦っている生物委員でもある。

ともかく、三治郎との約束を果たさなければ…。


笑った三治郎が思い浮かぶ。


大口を開けて笑う姿は普段の大人びた雰囲気とは打って変わって、歳相応の表情だと思う。
片方八重歯が欠けているのだ。

とても、可愛らしい。


ふふ、と笑みがこぼれる。


廊下の曲がり角を曲がると、そこにある人影があった。


なぜ、こんなところに…。

気配がまるでなかった。

さすが、上級生だ。


「立花先輩…」


学園一、冷静で優秀と言われている、立花仙蔵先輩。

その容姿は端麗で、一見女の人かと思われるぐらいだ。

しかし、どこか威厳を感じさせるその雰囲気は男そのもので。


黒く長い髪が風でなびく。
さらさら、と艶やかに。


三治郎の髪もこんなだったな。


「…ん?ああ生物委員の竹谷か」


ちらり、とこちらを見て、また視線を同じ方向に戻した。
その表情は無表情のようであったが、困ったような、そんな表情だった。


「こんなところで何してるんです?」


と自然に思ったことが口から出た。
その言葉にゆっくり、と振り返る。

その仕草、一つ一つもとても優美で心底驚く。


「お前もどうしたんだ?一年の長屋に」


確かに。
先輩からにしてみれば、おれもここに居るのが不思議だと思うだろう。


「私は三治郎に用がありまして」


そうか、と一言。
続く言葉を待つ。
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