上×一は

□悲し、愛し
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悲しい、悔しい、苦しい、嬉しい、愛しい、と私は鳴く。




悲し、愛し




深夜、月もない暗い夜。

ぼくしかいない医務室。
薬の調合と明日のことを確認する。

すると、廊下のきしむ音が聞こえた。
すー、と障子が開けられる。

そこには金吾を横に抱えた小平太がいた。


「小平太、どうしたの」

「…、伊作」

いつもより、沈んだ声。
顔も別人のように、冷静な。

何があったのか、不思議に思いつつ、金吾に目線を向ける。
金吾は目を閉じて、小平太の腕に肩に寄り掛かっていた。

顔色は蒼白で、髪も解けて、一年特有のあどけなさがそこにあった。


「金吾?ぐったりしてるじゃないか…眠ってるっていうより気を失ったって感じかな…」


事情を聞こうと口を開こうとしたら、小平太の言葉に塞がれた。


「布団貸してくれないか」

「布団?まあ、今は空いてるからいいけど、一体…」


何があったの?

言葉に出来ずに、ただ次の言葉に唖然とした。


「理性が切れた」


一瞬、時が固まった。

この言葉が意味するもの。



朝からの委員会。

食堂でも見かけなかった二人。

深夜。

目の前には気を失った金吾。



「君、四年の子も手を出しといて、一年の子に…っ」



ただただ、小平太が何を考えているのか、分からなかった。
五つも下の子に。

なんてことを。



「悪いか。この子もそう望んでいたんだ。私が好きだって」


その言葉を聞いて、いくらか、胸が静まる。

その子も望んだこと。

同意の上でか…。


「小平太を…、」


でも、ということはあの噂を知っていてもなお、好きだった、ということだろう。
まだ幼いのに、苦しんできたのかな。

ぼくの勝手な見解だけど、多分そうだろう、と確信する。


「それじゃあ、君と滝夜叉丸とのこと誤解してるのかもね」

「ああ」
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