上×一は

□甘い指
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「私も兵太夫に用があったのだが…」


なるほど、兵太夫か。

確か、兵太夫と立花先輩は作法委員…。

おれは言葉を濁す立花先輩が気になった。


立花先輩はまた、視線をあちらの方へと向ける。
確か視線の先は三治郎と兵太夫の部屋。


「?」

「あれを見ろ」


言われたとおり、立花先輩の肩越しから、その方向へと目を向ける。


「…!」


そこには三治郎に膝枕してもらっている兵太夫がいた。
日向ぼっこしているようで、扉を開けっ放しにして。

兵太夫は寝ているのか、すやすやと目を瞑っていた。
その小さな頭を三治郎が撫でている。


ふわふわ、ふわふわ。


その表情は、何とも言えない、愛が深い顔。


ちり、と胸から音がした。


「仲がよろしい事で…」


ぼそり、と呟く立花先輩。
無表情だが、恐かった。

その真っ白な肌が嫌に浮き立った。


「立花先輩?」

「少し妬くな」


淡々と言われた、その言葉にぞくり、と来た。
まるで草食動物を狙う肉食獣のような目つきだった。

おれもそんな顔をしているのか…。


「…」


さ、っと前を進みだす立花先輩。


「来い、八左ヱ門」

「は、はい」


急いで、立花先輩の後を追う。



「お前は三治郎に用があると言ったな」

「ええ」

「先に私が兵太夫を連れて行く、その後に来い」

「分かりました」


まるで、戦術の説明をしているように話を進める立花先輩。

おれが了承の意を示すと、そのまま体を翻し、三治郎たちの部屋へと足を向けた。


おれはこっそり、とその様子を伺う。
今の立花先輩なら、三治郎に何を言うか、分からない…。


あの表情や言動。
立花先輩はきっと兵太夫に気があるのだろう、と思った。

あの冷静な人が、

笹山兵太夫という子はすごい子だなと思った。
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