上×一は

□悲し、愛し
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時も忘れて、どろどろになるまで、バレーをした。
サーブに三段攻撃、笑いながら、腰の痛みを忘れて動きまくった。


「金吾、取れよ!」

「はい!」


小平太先輩とこうしていることがあまりにも楽しすぎて、昨日の夜のことは、忘れていた。


あれは、夢で、もう二度とないことで。

あの出来ことは一回っきり。

ただの幻だったのだ、と思ってしまうほど。



日が西に傾き、橙の光がぼくたちを照らす。

へとへとになって、みんな地面に腰を下ろす。


「もう、無理ですー!」


限界を告げると、しょうがないなあ、と頭を掻く小平太先輩。


「それじゃあ、今日はこれで終わり」

「貴方の体力はほとほと、呆れます」


はぁ、と息を吐く滝夜叉丸先輩。
乱れた髪を整えているみたいだった。


「お疲れ、みんなちゃんと、寝るんだぞ!」

「はい。失礼します」


次屋先輩と時友先輩が立ち上がり、長屋の方に足を向けていた。

ぼくも立ち上がろうと、腰を上げる。
すると、ぴり、とした痛みがぼくを襲った。


「…ん」


思わず吐息を漏らす。


「金吾、」


名前を呼ばれて、顔を向ける。
目の前に小平太先輩がいた。

びくん、と身体が揺れる。


「な、何ですか?」


先ほどの笑顔とは違い、少し憂いを帯びているような、そんな顔だった。
どうしたんだろう…。
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