上×一は
□悲し、愛し
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「泥が付いているぞ、ここ」
くい、と親指で泥を拭い取ってくれる小平太先輩。
その指が熱くて、何故か胸がざわついた。
「あ、ありがとうございます」
にこ、と笑うと小平太先輩が腰を下ろした。
鼻先には小平太先輩の顔が。
ちゅ、と軽く口付けをされる。
今、何された?
小平太先輩の口が、ぼくの口に。
かっ、とあっという間に顔が赤く染まる。
す、と耳元に小平太先輩の口が移動する。
低い声で囁かれる。
「金吾。今夜、私の部屋に来い」
ぼくはそこで、再びあの出来事が現実だったことを理解する。
目の前が真っ暗になった。
期待と不安で。
「は、…はい」
ぼくは一体、どんな顔をしていたのだろう。
気付けば、走り出して、目から涙が出てた。
あの時とは違う涙。
ぼくはこの関係を望んでいたの?