上×一は

□全ては、貴方のもの
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そして、時間は空しく進み、辺りは暗くなり、夜になった。



虫の声が悲しそうに聞こえるのは、どうしてか。


懸命に、自分の役目を果たすために音を出しているから。


それとも、ぼくが今、悲しい、と思っているから。


多分、後者かな。


きしり、きしり、と歩くたびに床が鳴る。



夜風に乗って、解かれた髪が宙を舞う。



私の部屋に来いってことは、やっぱり昨日やったこと、やるのかな。


汗と泥で汚れた身体は隅々まで洗った。


キレイな身体の方が先輩もいいよね。



そんなことを思う自分が空しい。


そして、いやらしかった。



「…っ、」


ごくり、と息を呑む。


小平太先輩の部屋の前。

名前を言おうとするけれど、喉が乾いていて、声が出なかった。


こほ、と咳き込むと障子越しに小平太先輩の声が聞こえた。



「金吾」



先輩から紡がれる、自分の名前。

昼の元気の良い声とは違っていやに艶っぽい声。


それだけで、腰が砕けそうになる。


震える手で障子を開けようとするが、小平太先輩が障子を開け、あっという間に小平太先輩の腕の中にいた。


ぱたん、と閉まる障子。


月明かりで、ぼぅ、と光って見えた。



「遅かったな、金吾」



くい、と顎を掴まれ、上を向かされる。

熱が籠る先輩の目と、ぼくの目が合う。


「七松先輩…っ」

「もう、待ちくたびれたぞ」


ちゅう、と口付けされる。


角度を変えては、味わうように。


昨日の荒々しく、奪うような口付けとは違う。

相手を想う、口付け。


頭が熱くなる。

小平太先輩で一杯になる。



「ふ…っん、ぁ」
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