上×一は

□なんにも、本当に
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ふと、あることに気付く。

小平太先輩…は最中に気持ち良いって言ったこと、あったけ。

こんなところで考えるなんて、不謹慎だけど、考えてしまった。



―――金吾、気持ちいいか?


―――…金吾ッ



かぁ、と顔が熱くなる。
声に熱がこもっているのは確かだ。

けど、言葉にしたことはない。


やっぱり、そこまで、気持ちよくないのかなあ。


滝夜叉丸先輩の方が良かったら、ぼくは…。


用済み。



「…っ、」



また、涙が出そうになった。


「金吾、金吾」


はっと、する。
目の前には滝夜叉丸先輩の顔。


「…!」


「本当に、大丈夫か?…医務室で少し、休んだ方が…」


長い睫毛。
ふっくらと厚い唇。
端正な顔。

すらり、と伸びる指先。

きれいな人。


ぼくは、小平太先輩から身を引いた方が、いいのかもいれない。

このままだと、ぼくは…


「大丈夫です、本当に…」

「…金吾」


眉を寄せる滝夜叉丸先輩。
ぼくのことを心配しているみたいだった。


「じゃ、このあと、私の部屋な」

「分かりました」


「…、」



ぼくはそのとき、悲しそうな顔をする滝夜叉丸先輩に気付かなかった。
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