上×一は

□それでも、私
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「金吾、剣は集中力だ」

「はい!」


そうして、木刀を構える、金吾。


その姿が凛として、きれいだった。
幼くて、小さいはずなのに、大きく美しく見えた。


見ていて、恍惚としてしまった。



じっと、始終見ていた。



「そこまで」



戸部先生が終了を告げる。
金吾は木刀を下ろし、戸部先生の方へと近付いた。


「中々だったぞ」

「あ、ありがとうございます」


頬を赤くして、笑顔で言う金吾。
戸部先生の手が金吾の頭を撫でる。



なんだ、あれは。


なんだ、これは。



私の中で獣が咆哮する。


その奥では急速に何かが冷えていった気がした。



「あ、そうだ。金吾、私は明日から出張に行ってくる。当分稽古はなしだ」

「分かりました」


素直に返事をする金吾。

戸部先生に微笑みを向ける。



なんだ、あれは。


なんだ、これは。



私以外に笑いかける金吾。

金吾が私ではない奴に笑い、話している。



…金吾は私のものだ。


私だけの。



ぬ、と何も考えず、二人の側に現れる。
今自分はどんな顔をしているのか。


何も感じない。


ただ、あるのは



金吾は私のものだという、事実。
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