上×一は

□みている、ずっと。
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「視えないモノについてどう思います?」


突然そう、三治郎が尋ねてきた。
まるで、今日は天気がいいですね、と言うように軽いトーンで。

だからおれも深く考えずに答えた。


「幽霊とか、…妖怪とか神的なモノとかか?」


ふふ、と小さく笑う三治郎。


「…はい」


そのときの三治郎の目線がおれの少し上を向いていたから、そこに何かが居るのかと思ってそこを見る。
しかし、何も居なかった。

いや…


「おれには視えないからなァ」


ふい、とおれから視線を外す三治郎。


「そうですね」


笑顔が変わった。

三治郎にはたくさんの笑顔がある。

これは…


「三治郎は視えるのか」


すると、こちらの方に向き、その笑みを深くした。




「…内緒です」


悲しそうに、

淋しそうに笑う顔が

気になった。


ふと、視線を近寄ってきた動物に向ける。
愛でるように、頭を撫でる三治郎。

気持ち良いのだろう、普段は獰猛なその目が今は温かい色を持っていて、細められている。

そして、三治郎は徐に口を開いた。


「先輩は生物に好かれやすいですね」


ピチチチ、
肩に乗っていた鳥が鳴く。


「そうだな、体質みたいなもんだな…」

「はい、分かります」


そう言うと、三治郎は嬉しそうに笑った。

顔を上げて、何かを視ている。


「視えないモノにも好かれているかもしれませんよ?」


ヒラヒラ、
蝶が頭に寄ってくる。


「…そうか」


この子は視えているのか。

それは、それは。


「それは、淋しいな」


きょとん、とする三治郎。


「おれには視えないだろう?」


一方的な好意なんて。

淋しい。


でも、視えなければ。


おれからは



「愛でてやれない」



眉を潜める。


しかし、三治郎はにこ、と笑って。


「竹谷先輩はそのままで十分ですよ」


だから、そんな辛そうな顔をしないで。


そう言っているような気がした。


三治郎がそう言うのならば、きっと大丈夫なのだろう。


でも、


お前の視ているモノをおれは知らない。





end

20081227 執筆
20090319 公開
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