上×一は

□愛おしくて、
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「小平太」


名前を呼ばれた。

思考から、現実へと引き戻される。


ああ、医務室か。


「聞いてる?人の話」


「なんだったっけ」

「…君なら、こんな怪我する前に、避けれただろうにって言ってるの」


外の演習で相手からの攻撃を受けてしまった。
右腕に巻かれる包帯。

少し、ひりひり、と痛む。


「最近、ぼんやりしてる時、多いよね」

「…ああ」


青い空を見れば、あの向日葵のような笑顔を思い出してしまう。

金吾が私の頭の中を埋め尽くすのだ。

そして、思考の渦へと呑み込まれてしまう。


それで、回りに注意が行かなくなっていた。


「なんか、思い詰めてるような顔してるし…」

「…そうか?」

「うん。…まるで」


「恋の病だな」


後ろから声がした。
振り返るとそこには仙蔵が立っていた。


「仙ちゃん…、」


「お前が恋など、お笑い草だな」

「失礼だよ、それ」


くく、と笑いながら、私達の方へ近付いてくる。


「恋の病?なんだそれ、美味いのか?」


「誤魔化しても無駄だぞ、小平太」


この気持ちに気付かれなくて、取り繕ってみたが、仙蔵には効かないらしい。

しかし、相手が金吾だとバレてはいけないな…。
と咄嗟に思った。


一年と六年。


その差は大きくて、深い。


この想いが通じるなど、あるものなのか。


それに、あの子には想い慕っている人がいるのだ。

到底敵わない。


一年と先生。


というのも、差が大きいはずだ。



なんで、私じゃ駄目なんだろうか…。



「聞いてるのか?小平太」


先程の伊作の言葉と同じような言葉が繰り返される。
そして、また自分が思考の淵にいたことに気付く。


「そんなんでは、明日の実習に支障が起こる…気を引き締めろ、小平太」

「あまり、無理をしないでね」


二人とも心配してくれているのだろうか。

自分が情けなくなって、乾いた笑いでその場を後にした。
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