上×一は

□愛おしくて、
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「…っ、なな、まつ…先輩っ」


驚く金吾。

それでも、それは一瞬で、今はもう、私の服を掴んで、その幼い体を私に預けていた。


こんな穏やかな気分は初めてだ。


金吾が私を必要としてくれている。
こんなに嬉しいことはない。


愛しさが止めどなく、溢れてくる。


「…金吾、」


名前を呼ぶ度に想いが募る。


金吾が泣き止むまで、抱き締めていた。


どうして、こんなに愛しいのか。


このまま、私の腕の中にいてくれないだろうか。


しかし、そんな幸せな時間も過ぎて。


「…な、七松先輩」


そっと、離れる体。
温かい空気が冷えていく。


「あり、がとうございました…」


目元を赤く腫らして、恥ずかしそうに笑って。

その顔がとても、可愛くて。愛しくて。


君への想いが、また募る。


「ああ。…ちゃんと、山村に謝るんだぞ」


「はい」


ふわり、と笑う金吾。


暖かな風が吹いた。


その向日葵のような笑顔が私は好きだ。

ずっと、その笑顔を私に向けて欲しい。

その笑顔が私のものであればいいのに。



でも、今は

この瞬間の

その笑顔は



私だけのもの。
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