企画

□獣、叫ぶ
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もうひとつの形。という形。

私であり私ではない。

私の代わりに、感情を叫ぶのだ




獣、叫ぶ。




私の中には獣が住んでいる。

いつもは私の中で眠っているそれは、夜になると起きるのだ。


獲物を探して、歩き回る。



「…!」


は、とする。


周りは暗い木々の中。

目の前は一年の長屋。

そして、あの子の部屋。


夜、気付けばここに居ることが頻繁になってきた。


毎晩、毎晩。


夢の中では、その獣があの子を喰っている。


見たくない、見たくない。

揺れる白い身体。
散らばる黒い髪。

私は、何をしているんだ。



「…っ、は、は」


汗だくで目が覚める。
肌に髪の毛が張り付いて、気持ち悪い。

私は夢で、あの子を


犯していた。


最悪だ。



「小平太…」



不意に横から名前を呼ばれる。
ちら、と視線だけそちらの方に向ける。

そこには長次が上体を起こして、私をじっと見ていた。
その表情は私を心配するような、ほのかにそう思わせる。

どうやら、またうなされていたみたいだ…。

情けないな。


「大丈夫だ…ちょっと嫌な夢を見ただけ」

「…すごい汗だ…少し顔を洗ってくるといい」


静かに発せられる、その声が私は好きだ。
私はああ、と返事をして、井戸へと向かうために布団の中から出た。

夜風が私の熱を冷ます。


髪が風に揺れた。
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