企画

□獣、叫ぶ
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「…」


桶の水面に映る私の顔。

一瞬、獣が見えた気がした。

ぐるる、とうなる、私の獣。


パシャン、と思いっきり、水面を叩く。
揺れる水面。
私の顔が消える。

どうにかして、この獣を押さえる方法はないのか。

このままでは私は…。


金吾を

犯してしまう。



しかし、何も見つからないまま、そのときは来た。

私は知らなかった。


金吾が既に恋人がいたことを。


私が消えた瞬間だった。



それは偶然、金吾を見かけたときだった。

金吾の懐から手紙が落ちた。
金吾はそのことに気付いておらず、私は気になって拾った。

そのまま金吾の名前を呼ぼうとしたが、それは畳まれてはおらず、ちら、と中身を読んでしまった。

そこには、明らかにそんな内容で。

私は目を見開いた。

宛先を見て、更に驚いた。


戸部先生…。



「金吾…、」


思わず、金吾の名前が口から出た。

振り向く金吾。

私と同じように目を見開く。


「、な、七松先輩ッ」


あわわ、と焦っているようだった。
私の側に近付いて、あの、これは…、と言葉を選んでいる。

しかし、私は誤魔化される前に言い放つ。


「お前、戸部先生が好きなのか?」


言った瞬間に金吾の顔が真っ赤に染まる。
しかし、私を信頼しているのか、笑顔で金吾は言った。


「…、な、内緒ですよ」


えへへ、と照れる金吾。

こんな金吾を私は見た事がない。


しかし、この子はもう、他の人のもの。
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