企画

□心舞い、上の空
1ページ/7ページ

舞い上がる、ふわふわと青を。




心舞い、上の空





「なに、三郎次…好きな人いんの?」


唐突に左近が言った。
しかも放課後に。
誤魔化しの利かない、この一番暇な時間に。


「は?」


最初の誤魔化し。
しかし、こいつにはこれぐらいのこと、利かない。


「は?じゃない。最近よく上の空だろ」


やっぱり、そうきたか。
おれが最近、上の空?…確かに、頭の中はあの人で埋め尽くされている、けど…。

素直にそれを言うほどおれは惚気てない。


「そうか?」

「うわ、自覚ないのかよ…。だよな!久作!」


隣で本を読んでいた久作に話かける左近。
久作は読んでいた本を閉じて、おれの方に顔を向けた。

その顔はにやにや、と嫌らしい笑みで。


「そうだな〜。三郎次には珍しく…呆けてるな…やっぱ」

「「恋だな」」


二人揃って言う。
おれは何故か無性に腹が立った。

二人にはおれとあの人のこと、言おうとしたけど、一気に喋る気を無くした。

こいつらに話すとどんな反応されるか目に浮かぶ。


「…言ってろ」

「相手は誰だ?くの一か?」


やるなこいつ、とおれの頬を突付きながら、聞いてくる左近。
いつもの不機嫌な顔ではなく、悪戯好きの笑みで。

なんとも、活き活きしている。


「いや、くの一はないだろう…さては町娘だな!」


どこで、知り合ったんだ?とか聞いてくる久作。
普段は良い奴らなのに、こういう話になると、突然うざくなるのはなぜだろう。

おれは早くこの場から離れたかった。

しかし、今日は掃除当番でもなく、大した宿題もなく。

そして、委員会もない。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ