Silver soul

□やさしいうそ
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「忘れろ」
「え・・・」

あなたは、ひどく残酷な人でした。






やさしいうそつき






桜舞う季節。
今日、銀魂高校三年生として卒業を迎え、巣立つときが来た。
担任の坂田先生は式の時でも常と変わらぬ眠たげな気怠い表情をしていた。
こうして今、外に出て二人最後の別れを惜しんでいる今でさえ、その顔を寂しさや悲しさに歪めることはなかった。
俺は、忘れろと言った先生の意図が分からず、混乱していた。・・・普通、こういう時に忘れろなんて言うか?

「先生・・・忘れろって、どういう・・・」
「忘れろ。あー、お前、確か大学行くんだったよな?」
「はい」
「じゃ、『今の大学生活と高校時代どっちが良い?』って訊かれてもな、絶対”大学”って言え」
「な・・・なんでですか、先生」

まるで今までの高校でのことを全て否定するかのような先生の発言に、俺は胸が苦しくなるのを感じた。
先生のこういった突飛な発言は今に始まったことではないが、ここまで理解に苦しみ胸が痛むものはなかった。

「・・・・俺ァな、ここの学校に来て間もない頃に知り合いに訊かれたことがあってな」
「・・・何を、ですか?」
「『今の学校と、その前に居た学校どっちが良い?』・・・気持ちは完全に前に居た学校に傾いていた。当然だろ、ずっとそこに居て慣れてたんだから。でも、俺は迷わず今の学校だと言った。何故か分かるか?」
「・・・いえ、」

誰だって、長く親しんだ所の方が良いに決まっている。しかし敢えて先生は赴任して間もない何も知らない未知のここを選んだ。
一体、何だというのか。

「人ってのはな、未練がましく生きてっと不幸になってくんだよ。今居るその場所にあるモンも見失って、また不幸になって。その繰り返しよ」

あ〜こういうのなんて言うんだっけ、リサイクル?
どこか間違ったことを付け足した先生に、しかし俺はそれを訂正することはなかった。先生の言葉を噛み砕くのに必死だったからだ。

「・・・要するに、過去に縋って不幸に生きるんじゃなく、現在を受け入れ尚かつそこから幸せを見つけていけ、だから今までを忘れろ、・・・ってことですか?」
「うんまあそんなトコ。・・・つーか俺より分かりやすい説明だなオイ」

どこか拗ねたような先生の様子に小さく笑う。

ふと、沈黙が降りた。

風が吹き抜けて、木々を揺らす音と少し向こうから聞こえるざわざわとした人の声だけがそこを支配した。
・・・ついに、本当に別れる時が来た。なんとなくそう、察した。
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