ガッシュ

□答えの無い質問
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答えの無い質問





 川べりに寝そべるなんて初めてのことなんじゃないかと考えた。
 前髪をくすぐる風は、少し冷たい。

 空は、どこまでもどこまでも高く感じられて、いつも見ていた筈の風景なのに、まったく違うものに見えた。

「清麿」

 ふいに声を掛けられて、清麿はゆっくり顔をそちらへ向けた。
 綺麗な白髪をなびかせた青年が、自分と同じように寝転がっている。

 遠くを見つめる彼の目には、何も映されていないようにも、すべてが映っているようにも見えた。

「答えが出ないんだ」

 落ち着いた口調だった。
 恐怖も混乱も無く、ただ事実を述べている、といった感じだった。

「答えが出ない……? アンサー・トーカーの能力をもってしても出ない答えがあるのか」
「……らしいな」

 そこまで言うと、デュフォーはまた、だんまりを始めてしまった。

 元々、あまり口数の多い方ではない。
 喋る時はしっかりと喋るので、口べたというわけでは無さそうだが、彼は、意味のある会話以外はすべて不要と考えている節があった。

 ガッシュと出会う以前の自分と似通った点がある様な気がして、清麿はうっすらと微笑んだ。

「何を笑っているんだ」
「その答えも出せないのか? 」

 図星だったのか、デュフォーは僅かに顔をしかめさせた。
 喜怒哀楽の乏しい彼が、目に見えて分かる程に顔を動かしたということは、彼が、かなり不満だということなのだろう。

「すまん」

 謝ると、小声だったが「別にいい」、という答えが返ってきた。

 そこでまた会話が途絶えるかとも思ったが、デュフォーは意外にも、更に言葉を続けてきた。

「……答えが出ないこと自体は、別に良いんだ」
「そうなのか? 」
「あぁ、まだ俺には限界があるんだとわかる」
「自信家な発言だな」

 清麿は笑ったが、デュフォーは笑わなかった。

 けれど、怒りもしなかったから、別に気分を害したというわけでもないのだろう。

「清麿」

 また名前を呼ばれて、清麿は身体を起こした。
 デュフォーは相変わらず、無表情で空に目線を向けている。

「何だ」
「お前の傍にいると、答えの出ない疑問ばかりが浮かぶ」
「……俺? 」
「そうだ、お前だ」

 ゆっくりと、デュフォーも身体を起こした。
 そうして初めて、清麿と視線を合わせる。

「下らない疑問ばかりな筈なのに、何故かそれがすべて、とても重要なことの様に感じる」

 言いながら、デュフォーは清麿に手を伸ばしてきた。
 頬を撫で、首をたどり、肩を触って、また頬へ戻す。

 そこにセクシュアルな感じはなく、ただ、不思議なものがあったから触れてみたいという、純粋な好奇心が感じ取れた。
 だから、清麿も彼の好きな様にさせていた。

 デュフォーのイメージは、真っ白で冷たい感じだったけれど、手はとても温かくて、なんだかソレが嬉しかった。

 もう片方の手も伸びてきて、清麿の顔を包み込むように触られる。

「……それが理由なのかはわからないが、お前の傍は居心地が良い」

 そう言って、デュフォーはかすかに微笑んだ。

 清麿は目を見開く。

「どうした」
「え、あ、いや……」


 答えに窮していると、冷たい風が、ビュウと二人の間を吹き抜けた。

 間の抜けた沈黙が落ちる。

「…………」
「…………帰ろう、か」

 先に口を開いたのは、清麿だった。
 両頬に添えられたままだったデュフォーの手に、自分のを重ねる。

 暗に、離してくれという気持ちわ込めた行動だったのだが、デュフォーは微動だにしない。

 それどころか、手には徐々に力がこもり、少しずつ引き寄せられている。

「おい、デュフォ……」

 何するんだ、という疑問の答えは、質問し終えるより先に、出た。

 合わせられた唇は、冷たかった。

 身体が、痺れたように動かない。
 それは一瞬の事だったけれど、清麿にはとても長い時間のように感じられた。

「……いやだったか? 」

 真面目に聞いてくるデュフォーの質問に、清麿は答えられない。
 デュフォーが少し淋しそうに見えるのは、気のせいだろうか。

 固まる清麿から、デュフォーの手が離れていこうとする。
 あ、と思った次の瞬間には、何故か清麿は、その手を掴んで自分の頬に押し付けていた。

 目を丸くしたデュフォーに見つめられる。
 居心地が悪くて、清麿は目線を逸らした。

「……いや、その……冷たくて、気持ちがいいから……」

 さっきまで温かいと思われていた手が、なんで急に冷たいと思われたのかについては、出来れば考えたくなかった。



END

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