ガッシュ
□答えの無い質問
1ページ/1ページ
答えの無い質問
川べりに寝そべるなんて初めてのことなんじゃないかと考えた。
前髪をくすぐる風は、少し冷たい。
空は、どこまでもどこまでも高く感じられて、いつも見ていた筈の風景なのに、まったく違うものに見えた。
「清麿」
ふいに声を掛けられて、清麿はゆっくり顔をそちらへ向けた。
綺麗な白髪をなびかせた青年が、自分と同じように寝転がっている。
遠くを見つめる彼の目には、何も映されていないようにも、すべてが映っているようにも見えた。
「答えが出ないんだ」
落ち着いた口調だった。
恐怖も混乱も無く、ただ事実を述べている、といった感じだった。
「答えが出ない……? アンサー・トーカーの能力をもってしても出ない答えがあるのか」
「……らしいな」
そこまで言うと、デュフォーはまた、だんまりを始めてしまった。
元々、あまり口数の多い方ではない。
喋る時はしっかりと喋るので、口べたというわけでは無さそうだが、彼は、意味のある会話以外はすべて不要と考えている節があった。
ガッシュと出会う以前の自分と似通った点がある様な気がして、清麿はうっすらと微笑んだ。
「何を笑っているんだ」
「その答えも出せないのか? 」
図星だったのか、デュフォーは僅かに顔をしかめさせた。
喜怒哀楽の乏しい彼が、目に見えて分かる程に顔を動かしたということは、彼が、かなり不満だということなのだろう。
「すまん」
謝ると、小声だったが「別にいい」、という答えが返ってきた。
そこでまた会話が途絶えるかとも思ったが、デュフォーは意外にも、更に言葉を続けてきた。
「……答えが出ないこと自体は、別に良いんだ」
「そうなのか? 」
「あぁ、まだ俺には限界があるんだとわかる」
「自信家な発言だな」
清麿は笑ったが、デュフォーは笑わなかった。
けれど、怒りもしなかったから、別に気分を害したというわけでもないのだろう。
「清麿」
また名前を呼ばれて、清麿は身体を起こした。
デュフォーは相変わらず、無表情で空に目線を向けている。
「何だ」
「お前の傍にいると、答えの出ない疑問ばかりが浮かぶ」
「……俺? 」
「そうだ、お前だ」
ゆっくりと、デュフォーも身体を起こした。
そうして初めて、清麿と視線を合わせる。
「下らない疑問ばかりな筈なのに、何故かそれがすべて、とても重要なことの様に感じる」
言いながら、デュフォーは清麿に手を伸ばしてきた。
頬を撫で、首をたどり、肩を触って、また頬へ戻す。
そこにセクシュアルな感じはなく、ただ、不思議なものがあったから触れてみたいという、純粋な好奇心が感じ取れた。
だから、清麿も彼の好きな様にさせていた。
デュフォーのイメージは、真っ白で冷たい感じだったけれど、手はとても温かくて、なんだかソレが嬉しかった。
もう片方の手も伸びてきて、清麿の顔を包み込むように触られる。
「……それが理由なのかはわからないが、お前の傍は居心地が良い」
そう言って、デュフォーはかすかに微笑んだ。
清麿は目を見開く。
「どうした」
「え、あ、いや……」
答えに窮していると、冷たい風が、ビュウと二人の間を吹き抜けた。
間の抜けた沈黙が落ちる。
「…………」
「…………帰ろう、か」
先に口を開いたのは、清麿だった。
両頬に添えられたままだったデュフォーの手に、自分のを重ねる。
暗に、離してくれという気持ちわ込めた行動だったのだが、デュフォーは微動だにしない。
それどころか、手には徐々に力がこもり、少しずつ引き寄せられている。
「おい、デュフォ……」
何するんだ、という疑問の答えは、質問し終えるより先に、出た。
合わせられた唇は、冷たかった。
身体が、痺れたように動かない。
それは一瞬の事だったけれど、清麿にはとても長い時間のように感じられた。
「……いやだったか? 」
真面目に聞いてくるデュフォーの質問に、清麿は答えられない。
デュフォーが少し淋しそうに見えるのは、気のせいだろうか。
固まる清麿から、デュフォーの手が離れていこうとする。
あ、と思った次の瞬間には、何故か清麿は、その手を掴んで自分の頬に押し付けていた。
目を丸くしたデュフォーに見つめられる。
居心地が悪くて、清麿は目線を逸らした。
「……いや、その……冷たくて、気持ちがいいから……」
さっきまで温かいと思われていた手が、なんで急に冷たいと思われたのかについては、出来れば考えたくなかった。
END