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□片想いの履歴書
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いの+シカ(お手て繋いで小道を行けば!)



この世界には、自分と家族以外にも人間がいるのだと私が気が付いた頃には、既に隣に並んでいたのよとお母さんから聞いた。物心付いた時には、隣にいることが極当たり前となっていた彼は、おそらく私が、お父さん、お母さんの次に名前を覚えた人である。



『片想いの履歴書』


なんかちょっと格好良いよね。
いつ頃からか、そんな言葉を耳にするようになった。私はその度に、え、シカマルが。まさか。と、大袈裟に頭を降り、笑った。それこそ昔は、いのちゃん、なんて私の事を呼んでいた可愛らしい時期もあったけれども、小さな頃からやる気の無さは筋金入りな彼の、その所謂、ナンカチョット格好良イヨネは、私にとって言葉馴染みの無い物なのだ。私には見えないシカマルの姿があるのかと思うと、正直面白くなかった。


つまんなーい。
そう大きめな独り言を呟く。


「つーか、何しに来たんだよ」
「べっつにぃ。何だって良いでしょー」
「良かねえよ。寝るなら自分家に帰れよな」
「なによー。シカマルのケチ」

こ難しそうな本を読む背中に枕を当てる。相変わらず、こざっぱりと整っているこの部屋は時間が止まった様にさえ思えるが、昔、私とチョウジがいたずらで描いたベッド脇の薄れた落書きが、月日の流れを醸し出していた。本を読むシカマルの肩や指、寝転ぶ私の脚や小さな胸。どれもが昔と今では大分違う。
家族同様に過ごしてきた私たちは、どこから違う歩みをしていたのだろうか。この背中は知らない誰かみたいだ。

「ねえ、シカマル」
「何だよ」
「アンタ、好きな人とかいないの?」
「あぁ?」

ダルそうな返事に次いで、振り向いた顔が本当に面倒臭そうでちょっと笑えてくる。しばらく怪訝そうに私を見た後で、「別に興味無えなあ」と言い、再び本に顔を戻す。ツマンナイ男ねー、と答えてはみたが、後に続く言葉も見当たらず、私もまたベッドに仰向けて天井を見上げた。

「・・・」
「・・・・・・」

「で、何があったんスか。いのさん」
「別に何もないわよ」
「いや、だってやっぱ変だろ、今日」

今度は本を閉じて、やっぱり怪訝そうにこちらを伺う。小さな子供みたいに真っ直ぐ見据えられて、つい目線を反らす。シカマルは昔から妙に鋭い所がある。幼い頃はこの鋭さに沢山の事を見抜かれてきた。

「うるさいわねー。・・・シカマルの癖に生意気なのよ」

思わず声が冷やかさが含まれる。少し驚いた目がこちらを見ていたが、シカマルはまた直ぐに読み掛けの本へ視線を戻した。こうやって私が意地を張れば、鈍い振りをしてくれる優しさを知っていた。
ベッド脇の落書きを指でなぞる。悪戯でがバレて、泣きじゃくる私に呆れていたシカマルの顔や、迷子になった私を見付けてくれた時のほっとしたシカマルの顔を、ふと思い出す。私のこの目は随分沢山の彼を見てきたのだ。

「・・・」
「・・・・・・」

「ねえ、シカマル」
「あん?」
「私はサスケ君が好きなのよね」
「おー、知ってる」
「でも実はさあ、」

この気持ちがヤキモチというのなら、好いた好かれたを飛び越えた家族同様の間柄を悔やみもするけど、それは違う。
いつの間にか私の知らない彼が居て、その私が知らない彼を私じゃない誰かは知っていて、そうしていつか私も彼も大人になって違う道を歩む。幼い頃から並んで来た事が、いつか「そんな事もあったね」と過去になっていく。
私は詰まる所、ただ淋しいのだと答えに辿り着くと、恥ずかしさに口許が弛んでしまう。

「私の初恋、アンタだったのよねー」

こ憎たらしい程に平然と本を読み続ける背中を、足先でちょんと小突く。少し間を空けて、「それも知ってる」と答えたシカマルは一体どんな顔をしていたのだろうか。
もしかすると、その所謂、ナンカチョット格好良イヨネの顔をしていたのかもしれない、と考えると、それは想像しただけでやっぱりちょっと笑えてしまう。

これからもこんなアンタと私で。



提供:talking×bird







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