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□誰が為の背中
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サクラ(一生愛の人生だから!)



『誰が為の背中』


小さな頃から誰かの背中ばかりをみてきた。

皆と同じ速度で歩いていたはずなのに、いつだって気がつけば皆の背中を必死に追いかけている、そんな自分がたまらなく嫌で仕方がない。私はいつの間にか自分よりもどこか劣る人を探しては、くだらないちっぽけな安心感を抱くようになっていた。

あの子は要領が悪い。
私の方が頭が良い。
私の方が器用。

そんな言葉で惨めな私を隠し庇っては、偉そうな事ばかりを並べて一端の忍者気取り。だけど私はいつだって、背中を眺めていた。いつだって、その背中に守られていた。いつだって、その目の前の背中に甘えているだけだったのだ。
それでも彼達は、私を大切な仲間なんだと言ってくれた。彼達はいつも私の名前を呼んでくれた。私にとって、彼達が本当にどれだけ掛け替えのない存在であったか。

しかし

私の大切な人は、奪われてしまった。失って初めて、言い表し様のない喪失感に駆られ、あの時、結局何も出来なかった自分の愚かさを何度も悔やんだ。

―ありがとう―
そう言って離れていったあの人へ。

―サクラちゃん―
そういつも名前を呼んでくれるあの人へ。

こんなちっぽけで弱い私に一体何が出来るか。考えて考えて漸く見つけ出した答えは一つだった。


「サクラ」


ふと、少し離れた背後に人の気配を感じた。振り向かなくてもその声だけで気配の持ち主はすぐに分る。真っ暗な空を見上げれば小さな星が幾つも広がっている。息を一つ。ゆっくりと吐き出す。

「五代目に聞いたよ。」
「カカシ先生。」

医療忍者か、サクラらしいよ、小さく笑った。
静かな声に合わせる様にゆったりと風が吹いて木の葉を揺らす。左端の丸太をそっと撫でて目をつむると、あの日の事が瞼を駆け巡る。あの人は確かに此処にいた。

「私は結局何一つとして出来なかったんです。」

いつも後ろを歩いて、いつも守られて。仕舞いには何もしないまま大切な人は奪われた。

だから。

「だから、今度は私が彼達を守りたいんです。」

真ん中の丸太を見ると、笑っている小さな少年の姿が浮かんでくる。なにもかもがあの時のままだ。サスケ君がいて、ナルトがいて、私がいて。全ては此処から始まった。だからまた、此処から始めるのだ。


「サクラ。」


くしゃり、と温かく大きな手が頭を撫でた。先生のこの手も、あの大きな背中も幾多の危険から私を守ってくれた。


「大きくなったな。」


もう一度ゆったりと風が吹いて木の葉を揺らした。吹き終わる頃には既にカカシ先生の気配は私の頭からも背中からも消えていた。

―ありがとう、先生―

涙が落ちそうになるのを堪えて、星瞬く夜空を真っ直ぐに見据える。一歩を大きく踏み出す。
少しだけ自分の背中を誇らしい、そう思えた。









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