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□拝啓、神さま。
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角飛(だけど邪心様に初恋を捧ぐ!)



『拝啓、神さま。』


此処から覗いた空が思いのほか遠く狭苦しいことに気が付いて、真っ青な快晴に軽く舌打ちをする。昨日までは空なんて果てしなく、それこそ飽きる程に見渡せていた筈だ。いや実際は、空なんてモノに微かの興味も抱けず、一度として深く見上げた事など無かったのだけれど。
それが今じゃ否応無しに空と向き合う形だ。仕方ない。首だけでは向きを変える事だって、無理難題というものだ。先程から中を見下ろしている鹿の群れと目が合って、見てんじゃねえよ、と喰ってかかるもこんな姿では気が滅入る一方だった。

「無様過ぎだろ、ホント。」

殆どため息に掻き消されるくらい力無く吐き捨ててもう一度舌打ちをすると、アイツの顔がふと頭を過ぎる。どうなったかな、なんてこの状況下を構えている自分がなんとなく可笑しくもあったが、思考とは裏腹に自嘲を帯びたため息が漏れていた。
こんな時、走馬灯が己の生き様を煌びやかに映し出してくれるらしいのだが、生憎の所、そんな生き方は持ち合わせていない。ただひたすらに、痛みが生きた快感へとかわるその一瞬だけを求め、生き続けた結果だろう。
そのために棄ててきたものの数すら覚えていないのだから当然の話ではあるのだけれども。

「おい、角都。」

返事など望めない名前を少し強く呼びかけてみるも、薄暗い岩の隙間から抜けることも叶わずに消えていく。聞こえてくるのは、離れた高い地上の、そのまた遠くの上の方で名前も知らない鳥が鳴く声ばかりだ。
改めて浮き彫りになったこの惨めさを、さてどうしたものかと眉間に皺を寄せる。大きく、深く息を吸い込むと、鼻腔をつく血の匂いにじんわりと緩い眩暈を感じて目をつむる。アイツの継ぎ接ぎだらけの体に染み付いた血生臭さによく似ている、そう思った。








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