世界に零れた月の雫

□捌章
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「さて…どう話したものか…」


そう言いながら、エクアは選ぶようにアユムに言葉を向けた。「どこまで話していいのか」、と言っているようにも聞こえた為か、アユムの少し険しい表情は、如何ばかりか、疑念を含んでいるようにも伺える。
が、エクアはそれを気にする事もなく、紡ぎ始めた。


「CREARE'Sの出した事実は、変わらない。仮にアルテミスが戻ったとしても、それがアルテミス=オウルとして扱われる事は無いだろうね…。
パラド=バーン、僕はね、「アルテミスは廃棄とする」という決定に納得しただけだよ」



無言のまま疑問符を浮かべるアユムは、エクアが何を言いたいのか、まだ理解出来ていないようだが、エクアは、構わず続けた。
それは、アユムにとって、聞きたい言葉と聞きたくない言葉を含めて。


「アルテミスは生きてるよ。それは間違いない。けれど、CREARE'Sのアルテミスは、もう死んだんだ。
パラド=バーン、もしもアルテミスに会ったら、
……アルテミス=オウルを殺す覚悟があるか?」


「…なっ…!」
どこか威圧感を孕む真剣な眼差しで、問いかけるエクア。驚きながらも、それはアユムが最も恐れていた事態でもあった。
生きている、けれどCREARE'Sに戻る意思は無い。それ故の「状況廃棄」だと語るエクア、それは「CREARE'Sへの背反は死を以て償われる」その言葉の重みを、アユムに確かめる為の問いでもあり、アユム自身、「生きているなら…」という事を思考すれば自念する問いでもあった。


アユムに言葉は無い。
LU.LU.Sとしての自分とアルテミスへのいわば憧れのような感情、揺れ動き言の葉をふるい落としたように、出てきた言葉は、自身のそれでは無かった。


「………エクアさんは…?エクアさんは…出来る、んですか…?」


「昔の僕は、マスター・デルニエ達、つまり、今のCREARE'Sにとっては、敵だった…って話は聞いた事ある?」


ぱちぱちと目を見開きながら、改めてエクアを見るアユム。自分の意見を問う言葉に、疑問を返すなど、アユムとしても愚行と分かっているのだろうが、エクアの「出来ない」が聞きたかったであろうアユムにとって、さらに疑問系が返って来た事は余程に意外な事だったのだろう。


「…なんだ、ダイモンはまだしも、レイバードからも聞いて無かった、か…」

軽く笑いながら、意外そうに言うエクアに、ただ反射的に頷くアユム。
それを見ながらエクアは続けた。アユムに軽い恐怖を覚えさせる程の、真剣な眼差しで。


「僕には、目的がある。だからCREARE'Sに協力しているんだ。その為なら、手段は選ばない。
その為にアルテミスを殺す必要があるなら、僕はそうする。デルニエとの同盟を受けた時から、非情に徹する覚悟は持ってるつもりだよ」



「まだ公式の発表までに時間はある。ゆっくり、考えるといい」、そう言って、エクアは退室を促した。



アユムは、脱力した様子で、扉に手を掛けた時、後ろからエクアの言葉が追ってきた。


「アルテミスの力は強大だ。無駄な被害を無くす為にも、アルテミスが死んでいない、という事は誰にも喋るな。…これは、命令だよ?」


小さく頷いて部屋を後にしたアユムは、自分自身の心と葛藤しながら、討伐任務へと赴(おもむ)くのであった。



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