世界に零れた月の雫

□拾陸章
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 ―第拾陸章 ‐偽りの衣‐―



カオルから蒼い勁力が吹き荒れれば、デルニエからは、金色の勁力が輝きを増していく。
僅かな間を置いて、デルニエが、後ろへ軽く跳んだ事が、この闘いの合図となった。

先手はカオル、距離を詰めてからの連撃。それを交わすデルニエだが、カオルの連撃をいつまでも交わす事は出来ない、と悟っているのだろう。幾度目かの一撃をデルニエが防護結界で弾くと、弾かれた反動から更なる一撃を打ち込むカオル、しかし、その眼前からデルニエは姿を消していた。

カオルの視線が右へ移ると、確かにそこに立っているのだが、ほんの一瞬とはいえ、カオルがデルニエを見失った事に違いはない。はだけた黒と白の縦縞模様のフード付きローブを着直すデルニエは微笑んでおり、たたずまいからも、余裕のほどが伺えるか。

「一番の印を持つ、プールム・パーティクラ…、バルドル、お前の性能<チカラ>では、届かない」

「…、その“純性”において、あらゆるモノを形作る事が出来る粒子系極具、か。
確かに、プールム・パーティクラとマザー・アンの組み合わせは脅威だな。…本物なら、だが」

そう呟いたカオルは、微かに微笑んだ。それに応えるようにもう一度、微笑んだデルニエは、「何を言ってるのか?」、というような視線を柔らかに投げ掛けたが、カオルがこの視線を受けとる事は無い。
カオルの8束の白髪<メッシュ>が淡く光ると、カオルの背に光を纏(まと)い顕(あらわ)れたのは、まるで2対4組の翼ようなそれ、10番の印を持つ極具“グング・ニル”だ。


「…八卦破陣」


カオルの呟きと共に、淡い光は収束、変わりに、カオルを包んでいる蒼の気流は、確かな青へと変わった。




―――




バベル上階の通路、アユムは、少しずつ最上階の部屋へと歩を進めていた。
少しずつ、というのも無理はない。何故なら…

「…また、上がった…?、何なんだよ、このバカげ過ぎた勁力<パワー>は…」

頭がどうにかなりそうなそれを、パワーレーダーが捉え続けるのだ。しかも、つい先程から聞こえる轟音は、おそらく、そこにあるであろう壁やら天井やらが、砕ける音に違いない。
自然とその足取りが重くなるのは、アユム自身、もはや訳の分からない勁力が飛び交う場所に、自分が行ってどうなるのか?、という思いもあったのだろう。



―――、軋み砕ける柱、穴が開いた壁、支えを失った天井の欠片が落ちていく。群青と黒の宇宙(そら)に広がる破壊の跡は、まるで終わりを告げる神話のようだ。
1分も経っていないだろうか、たったそれだけで景色を一変させる程のそれを引き起こしているのはカオル。その一撃一撃は、デルニエを直撃するには至らないものの、微かには触れている。そして、カオルの、バルドル=エンキのそれは、“微かに触れる”だけでも、デルニエの肩や腕、時には胴体の一部を消し飛ばす威力を有していた。


――だが、押されているのは、どちらかと言えばカオルだろう。全ての一撃に対してではない。カオルが決めに掛かろうとする一撃に、必ず“何らかの術(わざ)”を合わせて来るのだ。

カオルの攻撃、その裏側を滑るように光が弾けると、カオルの身体は、左腕を中心に消し飛ぶ。

“復元”と呼ばれる能力によってお互い、身体はすぐ元に戻している為、ダメージのほどは、定かではないが、デルニエの反撃に対処しきれていないカオルと、致命にならないよう、紙一重で凌ぐデルニエ、このまま続けば、どちらが先に限界を迎えるか、目に見えて明らかだろう。


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