世界に零れた月の雫

□拾陸章
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パラド=バーン、つまり、アユムに用がある、と言うリスクの言葉が分からないのは、カオルだけでなく、アユムも同じだ。
「…俺に…?、1度も会った事の無いアンタが、か?」

「ええ、そうですよ。
なに、バルドル=エンキの代わりに、アナタをもう少しマシにしてあげようと思いまして」

浮かべる笑みは、口角を上げるだけの正に不敵な、といったもので、不審がるカオルの眼差しを浴びて尚、意に介する素振りすら見せないのは、この男の豪胆さからか。

「“極具を収集する”という目的においては、私とアナタは同じはずだ。
私がアナタのプランを手伝うのは、そんなに不可解ですか?」


「…、…出し抜く為に、か?」

「それは誤解ですよ、エンキドゥ。ベラ=カーンのプランは破綻が見えてきた…。ですが、彼の者<我々>のプランは、既に破綻している、そう、終わっているんですよ。
それに…、アナタはご存じのはずだ、私の望みを」

不敵な笑顔と敬語は崩さぬまま語るリスクと、それを正面から睨(ね)め付けるカオル、アユムはまたも置き去りを食らっていた…。


「私が気に入らないなら、私を殺してみますか?
もっとも、今の疲れたアナタにそれが出来るとは思いませんが…?」

「…確かに疲労はある。慣れない極具も使ったしな。…だが、疲れているのはお互い様だ。
マザー・アンのプールム・パーティクラを、シリーの身体にコピーしていたのはお前だろ?性質をコピーしても、性能をコピーしきれなかったのは、それが限界だからだ。昔ならいざ知らず、ひ弱になった今のお前が俺を壊せる気か?、こいつは」


「フフフ…ハハハ…!、確かに、アナタを壊す事は、今の私では無理だ。…ですが、アナタを“退場”させる事なら出来ますよ」

瞬間、カオルとシルヴェリーを淡い光が包んだ。その光だけで、何が起きたのかを理解したのだろう。苦虫を噛み締めたその心境は、リスクに遅れをとった自身への怒りだったのかもしれない。
――そして、カオルとシルヴェリーは、その姿を光の中へと消した。


「カオルっ!?」


「心配する必要はありませんよ。空間転移させただけですからね」

「…空間、転移…カオルを…?」

「今のは、ベラ=カーンの持つ極具のチカラをコピーしたものです。指定した座標軸上の存在確率を変動させる、その特性上、戦闘には不向きであり、本来は恒星間などの宙間移動に用いられる極具(もの)。
我々が使う空間転移は、その極具(チカラ)を解析して生み出した術(わざ)なんですよ。
彼ほどの達者でも、虚を付けば、仕掛ける事は可能…もっともエンキドゥほどの者なら、2度目は無いでしょうから、今ので打ち止めですが、ね」


説明を交えながら、饒舌(じょうぜつ)に語る姿は、余裕からか、元々こいう男なのか?、ともかく確かなのは、戦意だ。
このリスク=レイフォーという男から感じるのは、強烈、いや熱烈なまでの戦意。だからこそ、アユムは、発勁に至った。アユムに何の用があるのか、は分からないが、その中に、「戦闘」という行為が含まれる事を想像するのは難(かた)くない。


「感は悪くないようですね、結構な事だ。
では、ルールの説明といきましょう」


「、ルール…?」

「ええ、今の私では、バルドル=エンキのそれに到底及ばないのと同様、今のアナタと私には戦闘能力の開きがそれなりにある。
ルールが無ければ、アナタに勝ち目は…いえ、そもそも私が、今のアナタと戦う理由すら無くなるのですから」



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