世界に零れた月の雫

□拾陸章
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ルールが無ければ戦う理由が無い、とは、どういう事か、いや、そもそも、アユムと戦う事に対して、しきりに「今の―」と着けるほうが印象的に感じるが、今ではないアユムと戦う事を、想定しているのだろうか?

「ルールは、簡単ですよ。バルドル=エンキの百式(それ)とは違う、アナタの中にある滅呪を私に当てればアナタの勝ち、その前にアナタが死ねば、アナタの負け。
私は、アナタがギリギリ死ぬ程度に加減してあげます。アナタの鍵は、滅呪を顕現させれるかどうか、と、それを如何にして私に当てるか…簡単でしょう?、パラド=バーン」


「…簡単だろうと、難しかろうと、やらなきゃ死ぬんだろ?、ただ、1つ疑問がある」

「…疑問?」

灰色に変色する瞳と共に、次第に濃度を増す白混じりの蒼い気流、戦闘体制を深めるにつれて、アユムに生まれたのは、確信めいた疑問だった。


「リスクさん、アンタが強いのは分かるよ。…でも、疲れてるアンタと、俺の間に、「俺が必ず死ぬ」、って程の差は感じない。
まともにやりあっても、高くはないなりに俺の勝つ可能性はあると思うんだが…?」


アユムが示した疑問に、眉を上げて驚くような表情を浮かべたリスク、本心は伺い知れないが、少しは驚いているのかもしれない。ただ、それも一瞬の事、直ぐにリスクの笑い声が響き、また次の瞬間には、元の口角だけをあげた不敵な笑顔に戻っていた。
アユムの疑問は、正しいものであり、同時に正しくはない。リスクからすれば、それ故に笑い声を上げてしまったのだ。


「…フフ、失礼。
本当に良い感をしている。確かに、今の私とアナタに、必ずどちらかが負ける、と言い切れる程の差はありません。…ただし、それはあくまでも単体での話だ」

瞬間、アユムは確かな戦慄を覚えた。一瞬で空気を変えるように、リスクの背後には、それが形作られている。カオルがデルニエと戦っていた時にも感じたこれは――、


「私やエクア=シンには、エロイムとは一味違った能力がありましてね、擬似的に極具のチカラを扱える、といった能力です。
、と言っても、エンキドゥが言っていたように、性質は扱えても、本来の性能や特性までは扱えない…、まぁ、オリジナルには勝てない、という事です。
フフ、ただし、今、アナタが感じている恐怖は、造られたモノからではなく、本物です。

極具を有する者とそうでない者では、そのチカラは大きく変わってくる。戦闘に関しても同じだ。戦闘用でないベラ=カーンの本来の戦闘能力は、せいぜい中位階のLU.LU.Sと同程度、しかし、実際には、上位階・ascensio(アセンシオ)のLU.LU.Sよりも強い。
そしてこれが私の極具、8番の印を持つ特殊系、“テッラ・カロル”。
言っておきますが、極具を有しながら、凡百のエロイムと互角にしかなれないエクア=シンと私を、一緒に思わないで下さいよ?、いくら私が弱くなったとはいえ、あんな“出来損ない”と比べられるのは、不本意ですからね」

必要の無いような事まで丁寧に喋っているが、変わらずのニヤついた表情からするに、どうやらこの男は、地で喋りたがりらしい。そして、リスクがいくら喋ろうが、アユムにとって危機が増す事に変わりはない。そう、リスク=レイフォーが最初に言った、「ルール」を呑む以外に切り抜ける術(すべ)が無い事をアユム自身が納得してしまったのだ。


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