微睡みの雫達

□双ツト無シ
3ページ/21ページ




愛美と別れた後、どうしようか、と迷いながら、2人が入ったのは雑貨店。店にある鏡を見ながら、藤乃は、結の右側の髪を三つ編みに結った。
年頃の女子には定番ともいえる制汗スプレーを着けて準備万端――、2時20分を過ぎた頃に、ようやく店のすぐ近くまできたのだが、そこにあった見慣れた影に、2人は、顔を見合わせた。金髪の少年、シオドラッドが店のすぐ前にいたのだが、辺りをなんとなく見回しているような様は、普段の柔らかい表情ではなく、少し険しく映ったからだ。


「ゆいゆい、藤のん、」

見回しているのだから、向こうも直ぐに気付く、お互いが歩みより、シオドラッドに話し掛けようとした矢先にそれは起きる。明らかに普通ではない気配を追いながらここまで来たシオドラッド、その気配が藤乃達の反対側、それも直ぐ近くにあったので、思わず振り向いたのだが、それが不味かった。

あくまで何気無さを、平静を装い、振り向いた矢先に聞こえたのは、近づく原付のエンジン音、直後に聞こえたのは、結の短い悲鳴、
再び、結のほうへ向き直りつつ、原付に押されたのか、倒れかかる結を藤乃と支えるシオドラッド、「大丈夫?」、と、心配する矢先、、、更に後ろから聞こえるのは、遠ざからない原付のエンジン音と、タイヤが空転する音、普段なら、気付けていただろう自分を責めたくもなったが、先ずは結の事が先決だ。

「結さん!、大丈夫ですか!?」
「ゆいゆい、怪我は…?」

心配する2人に、「大丈夫」、と応えながら、結が口にしたのは、荷物、という単語。どうやらひったくりにあったらしいが、目の前で起きている原付の「異常」を唯一目の当たりにしている結だけは、直ぐに驚きからか、声を失った。

それに気付いた2人が結の視線と同じ方向を向くが、そこには、驚きの光景が広がっていた。これならば、驚くのも無理はない。もっとも、シオドラッドだけは、違う驚きに包まれていたに違いないが。


「…おいおい、こういう所は、車で走ったらダメじゃないのか?、それに、盗みは犯罪だろ、こいつが」


その光景に驚いているのは、結の手荷物をひったくった男も、同様だ。何せ、大きな男が、その大きな手でヘッドライトを鷲掴みにして、原付を片手で止めていたのだから。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ