微睡みの雫達

□双ツト無シ
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その白い肌から、日本人ではないだろう屈強な体躯の男は、190p近くある身長と、暗い青‐藍色‐の髪が多少は特徴的だろうか。
ひったくり犯は、アクセルを回し続けるものの、進む気配はない。男は片手で止めたまま涼しい顔をしているが、ため息を1つ、「諦め時を知れよ、こいつは…」、面倒くさそうにそう呟いて、もう片方の手からゲンコツを落とし、辺りに轟音を響かせた。そう、原付の前部を、文字通りに潰したのだ。

原付からずり落ちた犯人は、腰を抜かしているようで、その轟音を聞いた近くの店々から人が出て来ると、「ひったくりだ、警察呼べ!」、男のそんな声が響き、慌ただしくなるその場。
当然、だるま食堂からも人影が1つ。

「よーくん」
「宮野さん」

「なんかあったのか!?、シオと東馬?、、っ!深古島!?、どうした大丈夫か!?」

食堂から出てきた少年の目に入ったのは、友人3人の姿。特に結は、倒れかかっている所を藤乃に支えられているため、何かに巻き込まれたのか?、と心配にもなるが、怪我は無さそうで、一先ずは胸を撫で下ろすものの、近くにいるシオドラッドの様子が、少しばかり違う。

シオドラッドの視線の先にあったのは、原付を素手で、それもあっさりと壊した男、4人の固まる所に近付く男、自然と警戒も強まるのだが、男は、ごく自然に笑みをこぼすと、姿勢の低くなっている結に合わせて屈んだのだ。これは、少なくともシオドラッドにとって予想外だったに違いない。

「お嬢ちゃん、大丈夫か?、盗られたのは、これだけだよな?」

「……え、あ…はい、すみま…?…日本語…」


驚きの光景から立ち直った結に最初に訪れた疑問符は、そこだったが、
「これでも親日家でね。大体の日本語は分かる、こいつがな」
、男がそう言った事で、些末(さまつ)な事と、片付けられたようだ。


「あの、有難うございました」

1人で立ち始めた結の支えを解きながら、藤乃は深々と頭を下げたのだが、その結には、目の前に自分の同級生がいた事に、そんな問題も吹き飛んでいたに違いない。

「み、宮野っ…!、え、え?」

目の前にいる少年の顔がやたらに近い。心配しているだけだが、結の中では、それよりも何よりも、顔が近い。

「よーくん、そんなに顔近づけるから、ゆいゆいが恐がってるよ?」

「えっ、あ、悪い」

直ぐに体勢を離しながら、離れるが、「怪我はないか?」、そう訪ねるそれは、顔を紅くした結とは対照的に、ただ心配しているだけだった事は、結にとっても残念である事は言うまでもないとして、予想の範囲内だったに違いない。



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