微睡みの雫達

□双ツト無シ
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一先ずの問題は去った。ひったくり犯も、腰を抜かしている間に、店々から出てきた人達に押さえられているから、大丈夫だろう。

後は――、シオドラッドがそう思った瞬間だ。


「…おい、少年」

男の視線は、宮野と呼ばれている少年、シオドラッドが警戒を向けるより早く、「この店の人間か?」、と訪ねていた。
シオドラッド以外では、初めて見る異人、しかも流暢(りゅうちょう)な日本語と、シオドラッドが珍しく真面目な視線を向けている事を受ければ、多少の警戒心が働くのは、無理もない。
そして、つい先日に学校に閉じ込められたのだから、結、藤乃も同様に警戒心を働かせていた事だろう。

やや、緊張した面持ちで肯定すると、男の顔が真面目なそれを浮かべた。そして――、

「カレーはあるか?」

「、…は?」

「、だから、この、ダル、マ、、くい、ドー?、にカレーは置いてるのか?」

この時、なんとも言えないおかしな空気が漂った事は、想像に難くないだろう。
一先ず、「だるま食堂(しょくどう)」だと、読み違いを正しながらも、ワインレッドのエプロンを着けた少年は、ただただ戸惑っていた。

「…で、カレーは?カレーはあるのか?」

ズイッと詰め寄る剣幕は、ある意味、圧倒的で、肯定すると同時に、「ならここで食っていこう」、多分に張られたその声からも、カレーに対する並々ならぬ執着心を感じる。さっさと店に入ろうとする男を止めたのは、シオドラッドだ。

「あの、僕達もこれからご飯なんだけど、良かったら、相席とかどうかな?」

シオドラッド曰く、友人である結を助けてくれた事に対するお礼と、珍しい縁だし、一緒にどうか、というものだった。

「…飯は大勢で食ったほうが美味いから、俺としては歓迎だ。
ただし、俺はタバコを吸うが大丈夫か?」


これから入る予定だった藤乃と結の了解を得て、相席は決まったのだが、シオドラッドの狙いは、当然、危険と判断した時に、皆が固まっていたほうが守りやすい、というのが本音だろう。



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