微睡みの雫達

□思い出の道標
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『今旬マップ?』

3人は3者三様の表情を浮かべていた。
夜鷹は何故今それが関係するのかと訝しむような視線を向け、結は瞳を輝かせパアッと花が咲いたような笑顔を浮かべる。
藤乃はそもそもこの雑誌が何なのか全く理解できていない様子で、きょとんと瞬きを繰り返す。

普通ガイドブックと言うと、都道府県毎の観光地やグルメなどが紹介されている。しかし、この今旬マップというのは全国各地の“町”にスポットを当て、話題のスポットや地域の住民なら誰でも知っているというご当地飯などを紹介する幅広い雑誌なのだ。
取り扱っている一例を見てもミステリースポットからホットスポットと幅広い。

興奮気味に解説するシオと結に藤乃はやや気圧され気味に頷くのだった。そんな熱を帯びた3人をよそに、夜鷹は路線図を眺める。
夜鷹も図書館に立ち寄った際などに読んでいるが、最も紫ノ原町に近い場所は1つしか無い。あそこは何が有名だったかと記憶を手繰り寄せていると、背後に人の気配を感じ、瞬時に振り向く。

「え」

てっきりシオが「フライングしないの!」と雑誌で叩くつもりなのだと予想していたが、背後に立っていたのは結だった。
いきなり振り向かれた事に呆然としている。思いもよらぬ人物に夜鷹も立ち尽くし、見方によっては見つめ合っているようにも見える。

「深古島?」

「違うの! 別に何かしようとしたわけじゃなくて、その」

「深古島がそんな事するとは思って無いけど、何か用か?」

「用とかじゃないんだけど、あたしも路線図見ようかなって」

「あぁ、俺がいたら見えないよな。どうぞ」

結が見えるように左にずれて場所を空ける。決して結は路線図が見たかったわけではない。しかしそんな気持ちを夜鷹が解するわけもなく、またやってしまったと項垂れる結。

「よー君……」

失望感が滲んだ声色に視線を向けると、一部始終を見ていたシオがジト目を向けている。

「鈍(どん)過ぎるよ」

夜鷹達が路線図を眺めている間に切符を購入していたらしく、呆れたように溜め息を吐き出しながら改札を通る。

「すみません。やはり鈍(どん)と言わざるをえないようです」

軽く頭を下げ藤乃も改札を通っていく。

「罰として2人でゆっくり来る事、いいね!」

「え、シオ君! 藤乃!?」

赤面しながら慌てて後を追おうとする結だが、せっかくの2人きりの機会なのだからと思いとどまる。

「ゆっくりって、目的地が同じなんだからホームで会うだろ?」

釈然としない様子の夜鷹に、結は咄嗟に思い付いた話題をふる。中学の時の部活の話から始まり、最近駅近くに出来たドーナツショップの話など。

電車が到着するまで10分近く時間があったのと、途切れることなく会話が続いた事で、結果的にシオと藤乃の思惑通りに事が運んだのだった。



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