微睡みの雫達

□思い出の道標
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   * * *
「うーん、やっぱり空気が美味しいね」

大きく息を吸い込み満足げに笑みを浮かべるシオ。その意見には全員賛同で、シオ以外の3人も清々しい空気を全身で感じ取っていた。
紫ノ原町から東へ町を3つ渡った所に在る蒼川町(そうせんまち)。元来よりこの町は、「清流の密集地」と呼ばれるほどに綺麗な川が多い。、川と海と水源に恵まれた土地でシンボルカラーも清流をイメージした淡い青。

都会ほど空気が汚れていないにしろ、人が暮らす為の最低限の施設だけを詰め込んだ紫ノ原町は若者離れが目立つせいか、どこか錆びれた閑散とした空気を放つ。
それに対し蒼川町は、自然の雄大さを残す長閑な空気を感じる。来訪者に開かれた町と言うような、どこか温かく迎えてくれるような空気がある。

「潮の香りがする。確か海に面している町だったか?」

「うん、でも泳いだり出来ないんだよね。だから県外のおばあちゃんちに行って海に入るのが楽しみだったな」

「どうして泳いだり出来ないのですか?」

「自衛隊の基地が有るから海は使えないんだって」

「海に入った事が無かったので皆さんと一緒に入ってみたかったのですが、残念です」

「入った事がないって」

不思議なモノを見るような視線を向ける夜鷹の後頭部にシオの手刀が落ちる。無言のまま視線で抗議する夜鷹だが、シオは夜鷹の存在を無いものとして町並みを眺める。

「いいんですよ、お気になさらず。そんな複雑な事情では無いんです。昔、父が海で溺れた事があるらしくって連れて行って貰えなかったんです」

「藤乃のお父さん、スポーツ万能そうなのに意外だね」

「口にすると怒られるので秘密ですよ? でも、足だけ浸かるとかでも駄目ですか?」



太陽が真っ白な砂浜と、その先の海を水平線の先まで照らしていた。空は1点の曇りも無く、抜けるような青空が広がっている。
波打ち際では2人の少女がきゃっきゃっと楽しそうな声をあげ、なんとも微笑ましい光景だった。
藤乃は黒のワンピースの水着で華奢な肩が露わになっている。藤乃が身体を動すと、スカート部分が蝶のようにひらひら舞っているように見える。

結は白のセパレーツ水着で、綺麗にくびれた体のライン、健康的な足が眩しい。
両手で掬える位の水をかける結から、藤乃が笑いながら避ける。照りつける熱い太陽の陽射しを受け、水しぶきがきらきら輝いている。



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