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□断章・9,5
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―断章9,5‐夢の料理‐―
アユムは暗闇の中にいた。上下左右、前後も分からない空間で、目を覚ましたアユム。しかし、その不思議な空間に声を出すより早く、光が灯ると、その眩しさから、顔をしかめてしばし、目を瞑った。
ゆっくり開いた目に映ったのは、長い机と椅子がズラリと並ぶ大きな部屋、何処か懐かしさを感じるその部屋には、奥にカウンターのような物があり、食堂のようにも思えた。
「…ここは、何処かで…」
「いつまで突っ立ってるんだ?さっさと奥に行け、こいつは」
不意に、後ろから響いた声、それは、アユムにとっても良く聞き慣れた声だった。
「カオル…!?なんで、あんたが!大体、あんたは離軍……」
そこまで言って、アユムは、懐かしさを感じるこの部屋を思い出したようだ。そう、ここは、ユーラシア中央本部基地の食堂だ。アユムは、かつての自分を思い浮かべているが、そこまで行くと、流石に自分の周りが変だという事に気付く。
目の前には、懐かしい光景と、相変わらずのカオル。どちらも、今の自分には出会うはずのない事物なのだが、不思議そうな感情とは裏腹に、それもいいか、という気分になるのがアユムにとって、一番の不思議だったに違いない。
カオルに誘導されるままに奥へと進み、更にカウンターの中に入っていくと、広い厨房、そこには、もう一人、金色の髪をなびかせる美しい女性が立っていた。
「…アルテミス…」
「あ〜…レイバード様の時くらい驚いてくれてもいいのに…」
「、はあ…………で?、、なんで、こんな訳分かんない事になってるんです?」
「…そういや俺も聞いてないな、これが」
結局、これは何なのか?そんなアユムとカオルの疑問に、アルテミスは、にっこりと微笑んだ。どうやらアルテミスは知っているようだ。
「いや、なんか罰ゲームらしいです。この3名で料理を作るっていう…」
「…罰ゲーム?…なんでそんな事…、?…カオル?」
「…ほう?、この俺に罰ゲーム、だと?何処のどいつかは知らんが、中々良い度胸してるじゃないか、こいつは」
「レレ、レイバード様!?殺気、殺気抑えて下さい!殺気立って料理って、確実に間違った方向に行きそうですからっ」
左の握り拳を右の掌に、叩きつけながら、口角をつり上げるカオルから放たれた殺気は、下手をすれば、ここいら一帯が吹き飛び兼ねないほどのもので、これには、宥めるアルテミスも気が気ではなかった事だろう。
――
「で?何を作る気だ?」
なんとか落ち着いたカオルの問いかけは、至極まともなものだった。LU.LU.Sは、燃費が良いため食事に頓着のあるものなど、そうはいない。素直に料理らしい事は出来ないと白状するアユムとアルテミス、舌打ち混じりに「使えん奴らだ」、と溢すカオルに、二人の視線は、「カオルはどうなのか?」というものになっていた。
「…ふん、俺は戦闘以外は無能だ。料理なんざ出来る訳が無いだろ」
自信たっぷりに自信は無いと告げるこの奇妙な光景に、アユムとアルテミスはどうしていいのか分からず、呆けた顔になった事は言うまでもない。
「…私達で出来るもの、やっぱり、オーソドックスに、ポトフみたいなスープみたいなものとかかな?」
気を取り直すように、努めて明るく建設的な呼びかけをするアルテミス。なる程、スープならば、野菜を切って軽く煮込むだけでも、それなりに食べれるから、失敗はそうそうしないだろう、アユムが、それに賛成しようとした時、カオルがその意見をはねのけたのだった。