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□断章・8,3
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――時は、月と呼ばれる天体がまだ、そこにあった時へと遡(さかのぼ)る。



17世紀に入った頃だろうか、月と呼ばれる天体の内部、広くはないが、整頓された一室、銀髪の青年は、同じく銀髪の女性に話しかけていた。
それは、ネフィリムプランと呼ばれるものによって生まれた、
LU.LU.S と呼ばれる者達についての事だ。


「アルテミス=オウルを何故、僕に?
確か、潜在能力がずば抜けていたはずだ…」

青年のそんな言葉にも、女性のほうは、「それが?」、と、大して聞く耳を持っていない。
いや、視線すら合わせようとしないのだから、単に興味が無いのかもしれない。


青年の、「そんなに信用されているとは思えない」、という言葉に、やや視線を上げ、「そうね」、と、こぼしては、話す気になったようだ。

「単に相性よ。アレは法術型、お前が一番適任、というだけ。
加えて言うなら、シルヴェリーには、それよりも大事な仕事がある。ダルクとルーナは、…いえ、マスターエロイムの連中は、昔から気に入らないのよ、お前より、ね。
バルドル絡みいうのが気に入らないけれど、アレはきっと、マザーへのいい研究材料になるわ、大事に育てなさい」


そこで言葉を切ると、青年も特に、反す言葉は無かったようだ。ただ、「そう言えば…」、と、濁した口から出たのは、アルテミスではないLU.LU.Sの事についてだった。

「…記憶が残っているLU.LU.Sがいたはずだな、…マリーダ、といったか」


「ああ、あっちのイレギュラーね」、という女性の言葉、後のLU.LU.S創造においても、それなりに珍しいと言える、人間だった頃の記憶を持つ者。
ただし、女性の「あっちのイレギュラー」、という言葉には、それ以外にも意味がある。

LU.LU.S理論の中でも、ほぼ限界値に近いと思われる性能を、既に開花させつつある、アルテミス=オウル、
そして、ネフィリムプランの中でも、特に潜在能力の低いマリーダ、アルテミスとは逆の意味でイレギュラーなのだ。


「何故、残したんだ?他に能力のある者を切ってまで」

青年のそんな言葉は当然のものだった。後にinfantia(インファンティア)と呼ばれる位階を終業し、名前を与えられた者達だが、途中で消えた者達と比べても、マリーダの能力は高いとは言えず、寧ろ劣っていたからだ。

女性は、クスクスと笑っていた。まるで、そんな事も分からないのか?、と、言っているような、小バカにした笑い方で、青年も、さぞや居心地が悪かったに違いない。


「単純よ、どんな世にも、出来の悪いモノは、絶対に必要なのよ。特に研究というのは、いいものだけを見てると、脳が腐るわ。
フフッ、“出来損ない”のお前になら分かるでしょう?」


そんな言葉に、居心地の悪さを更に強めたのだろう、青年は、部屋を出ていった。





――LU.LU.S trenta NO.2、マリーダ
、ネフィリムプランによって、最初期に生まれたLU.LU.Sの1人、
そんなマリーダの歯車は16世紀末のイギリス南部から始まる――、






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