光の鳥
□5月15日、
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世界大戦
争っているのは主に、中東とユーラシア東、それに巻き込まれる形で東南アジア地区と東欧、アメリカや西欧北欧は、東欧や東南アジアの防衛を手伝っているが、イギリスはまだ‐と言っても2週間程度だが‐、この大戦の何処にも痕跡を残しておらず、せいぜいが海軍部と空軍部による領域防衛のみ、国は他と比べても、“普通”を保っており、亡命する者もしばしば居たようだ。
5月14日、午前12時前頃、イギリス軍総本部が所在する街、その街外れにある小さな教会。
教会の中に、一人の男が座り、本を読んでいる。
濃紺のスーツを纏うその男は、スーツの似合わない屈強そうな体格と、藍色一色の髪、背丈は立てば180cm半ば程度の白人だ。
3分の1程だろうか、栞を挟み、本を閉じると同時に、パタンという、小気味良い音が教会に響いた所で都合良く、黒に映える白い肌の修道服を着る女性が声を掛けてきた。
その男は、その気配を察知しての行動だったのかもしれない。
「お久しぶりですね、レイバードさん。お仕事から、帰ってらしたのね」
「ああ、久しぶりだな、マザー・クラリス」
170cm程度の女性は、イギリスでもそこそこは高く見えるだろうか、軽く見上げながら答える男、レイバードは、顔見知りなのか、クラリスと呼んだ女性と雑談を始めた。修道帽<頭だけを包むベール>により髪は伺えないが、そのにっこりと微笑む姿と端正な顔立ち、碧(みどり)の瞳は、さながら聖母マリアのようだと言っても過言ではないかもしれない。
「あ〜、カオルさん、来てたんですか」
少し離れた所から、パタパタと駆け寄ってくる、3人の少女は一様に明るい笑顔で、クラリスと同じ修道服に身を包んでいる。
カオル、そう呼ばれた男は、微笑みのままに立ち上がると、少女らの頭を撫でていた。そうするのは、彼、カオルに取っての当たり前のようだ。
「、久しぶり、だな、シスター・ミズハにナーシャ、ニセラ」
褐色で細身細目のナーシャと、大きな目に右の泣きボクロが特徴的なニセラ、アジア系故にやや幼く見えるミズハ、
皆、身長は、150cm前後くらいだろうか、頭を撫でられたシスター達は、嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「でもでも、やっぱり一番最初に呼ぶのは、ミズハなんだね〜、カオルさん?」
ニセラが、ニヤけながら、カオルに訪ねるが、すぐにミズハが、
「何言ってるの〜」と、顔を赤くして言い返す。続いて、ナーシャとクラリスが2人を宥めに入るが、カオルは笑うばかり、、どうやら、これも日常らしい。
「ハハ、相変わらず賑やかだな、これで禁煙じゃなければ言うこと無しなんだがな、こいつは」
和やかで賑やかな雰囲気の中、
「だめですよ、カオルさん!タバコは毒ですよ、毒。タバコなんて、吸っててもいい事なんて…」
突如、反論を始めたミズハだったが、そこまで言って、急に俯き、言葉が止まった、困ったような微妙な表情だったのだが、ニセラが「ミズハは、いい奥さんになると思うよ〜」、と再びニヤけた為、堪らず頬を、いや顔全体を真っ赤に染めていた。
「、じ、じゃあ私たち、配給の時間ですからっ!、ほら!ニセラちゃんもナーシャも」
真っ赤なそれに慌てるように、ナーシャとニセラを引っ張ってミズハ達は、奥へと走っていった。そうして、目を丸くしたままのカオルと、苦笑いのクラリスがその場に取り残されたのである。