微睡みの雫達

□双ツト無シ
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もっとも、レジの後、藤乃達が居た所を何気なく見ると、文具店で何故か鼻メガネが特売されていた事、店を出る直前に、外から残念そうな藤乃の声で、「鼻メガネ」、という単語が聞こえた事で、それなりには理解したようだ。勿論、愛美がこれを聞かなかった事にしたのは言うまでもないだろう。


文具店のドアを押しながらケータイの時計を見ると、時刻は1時半を過ぎた頃、愛美からすれば、1時20分には戻るつもりだった事を考えると、やや遅れているだろうか。

しかし、愛美は、その遅れを取り戻す手段があった。店内で聞いた「お腹空いたね」、という会話に少しの確認。
「結さん達は、お昼まだなんですよね?」

自転車の鍵を外しながら、確かめる愛美には、にこやかな肯定が帰ってきた。聞けば、予定より少し遅くなったが、この商店街でそのまま済ませるらしい。
「良かったら、愛美ちゃんも一緒にどう?」

「…いえ、この後、少し用事があるので」
結からの提案を、柔らかく断ると、愛美の口から出たのは、だるま食堂に行ってくれないか?、というものだった。

「え、…え!?」

「今日は特に暑いし、お兄ちゃんも店との往復、、大変だと思うし、今日ぐらいは、自分で作って食べるから、帰らなくていい、って伝えて貰えませんか?」

結の真っ赤加減も凄いが、愛美も照れなのか、頬がやや朱に染まっている。藤乃は、自分が決める事ではない、と言いたげに結を待つ状態だが、紅くうつむき加減の2人の女子、やがて、
「…で、伝言お願いしますね結さん、」
早口から紡がれた言葉を置いて愛美は自転車で去って行ってしまった。


愛美からすれば、打算半分、本音半分。
今日は、午前未明からオンラインゲーム「Blue Bird」の大規模なアップデートが続いている。アップデート終了の時間を見越して、必要な文具を買いに来た訳であり、アップデート終了と同時に始めたいのだ。
世話焼きの兄が帰ってくれば、食事時間はゲームが出来ない。おにぎりくらいなら、自分でも出来るし、それならば、ゲームをしながら食す事も出来る。

それに、面と向かっては絶対に言えないが、兄を心配しているのも本当だ。毎日料理、買い物をこなしバイトもしている。そんな主夫のような兄は、テストが近付いた頃から、どこか疲れているようにも感じていたのだ。

それに、兄へ抱く結の想いは、聞くまでもなく周知しているから、きっと大丈夫だろう。
恥ずかしくなるような事を言った気もするが、目の前に広がる新たなBlue Birdを目指して、宮野 愛美の自転車は我が家を目指すのだった。




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