微睡みの雫達

□思い出の道標
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夜鷹は住宅街を歩きながら帰路に着いていた。夏休みが終わったものの、過ぎ行く季節を憂いている暇など無い。
学生という立場で言うなら学校祭が控えていて、私生活でも課題が山積み。何とかしなければという意思はあるが、具体的な解決策に辿り着いていない。救いという表現は正しく無いが、1週間バイトに出られないので考える時間は充分ある。

と言うのも、夜鷹のバイト先であるだるま食堂が臨時休業する事になってしまったのだ。店主の妻である栞が階段から足を踏み外し、医者の診断は軽い捻挫。
料理を作るのは店主の武、接客をこなすのが栞となっているので全く営業できないわけでは無い。それでも臨時休業となったのは、栞を労う為だった。
年明けの三日間のみ休業で、それ以外は常に営業しているだるま食堂。それ故、「いい機会だから休める時に休んどけ」という武の気遣いで大事を取って1週間の臨時休業となったのだ。

(それにしても、何をしたらいいんだ?)

学校に関する事や何か予定がある時以外はすべてバイトを入れていたので、いざ時間が空くと何をしていいのか悩んでしまう。
これが“今時”の学生ならばカラオケに行ったり、ファミレスで話をしたりするのだろうが、残念ながらどちらも興味を惹かれなかった。
カラオケは存在は知っているが行った事は無い。ファミレスに1人で行くのはちょっと、故にそこへ向かおうという所まで意識がいかなかった。

ぼんやりと考えながら歩いていると鞄に振動が広がる。勿論、鞄自体が震えたわけではなく、鞄に入れている携帯が震えている。
鞄から取り出して見ると同居人からのメールだった。「絶対!」と表記された件名に首を傾げつつ内容を確認する。

内容は一文と至ってシンプルで、けれど意図する内容が全く分からないものでもあった。返信に少し悩んだが、特に断る理由も無かったので「了解」と短く返事しておいた。
しかし数歩進んだ所で再び携帯が振動するので再び立ち止まる。再度携帯を開くとやはり短文だったが、やたら浮かれた顔文字が添えられていた。

状況は分からないが、ここ最近何かを考え込んでいたのが少しは払拭されているらしい。それならば良い傾向だと夜鷹は歩きだした。



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