微睡みの雫達

□思い出の道標
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それから数日後、夜鷹はシオと紫ノ原駅にいた。普段駅は電車としての機能より、駅から学校を結ぶバスに乗る為にしか使用しない。その為私服で、しかも学校以外の用事で駅に来る事自体新鮮だった。

「それで、何処に行くんだ?」

何度尋ねてもシオに誤魔化されて場所を教えて貰えない。そもそも空間転移が使えるシオは、普段は夜鷹の許可も無く指を弾いて移動するのだが、何故か今日は歩いて駅まで来ている。それなのに今すぐ切符を買う様子も無い。
まるでミステリーツアーだと思っていた時、遠くで名前を呼ばれた気がした。ふと顔を上げると結と藤乃が歩いてくる所だった。

「深古島と東馬?」

紫ノ原町は人口数万人とそう大きく無い町だ。映画館やカラオケ等、遊びに行けそうな場所は電車やバスで近隣の町まで移動する必要がある。
それ故、たまたま偶然ばったり出会う事は不思議ではない。
しかし、吹奏楽部である彼女達は学校祭に向け練習の筈だ。平日は授業があるので当然だが、土曜日の10時半にここにいる事などあり得ない。
驚きと疑問が入り混じった表情を浮かべる夜鷹に結が「今日は」と困ったように口を開く。

「エアコンの一斉点検だから。でも屋内の部活全部休みって、ちょっと横暴だよ」

「まぁ、学校祭も近いですしね」

「そう言えばそんな事をHRで言ってたな」

うんうんと頷く3人にシオは不思議そうに首を傾げる。

「ゆいゆい達がその日空いてるってのは聞いてたけど、エアコンと学校祭に何の関係があるの?」

「うちの学校、学校祭の日は一般公開されるんだ。保護者とか町の人とか、違う学校の友達とかも学校に呼ぶ事が出来る。
その日の気温にもよるだろうけど、必要な時に使えなかったら困るだろう? だから学校祭の前に一斉点検しておくんだ」

夜鷹の解説にふむふむと納得した様子のシオ。しかし、そこで夜鷹は「ん?」と眉を寄せる。

「深古島達が空いてるのは知っていたって、俺だけ何も知らないのか」

「拗ねない拗ねない」

「拗ねてるわけじゃ」

ムキになって反論するが、少しだけ当たっている所もある。自分だけ知らなかったという疎外感を感じたのは紛れも無く事実だ。

「あたし達もこの日空けておいてって言われただけで、何処に行くか知らないよ?」

「え?」

「とりあえず疲れにくい服装でって言われただけですしね」

それはつい先日夜鷹の元に届いたシオからのメールと同じ内容だった。きょとんとした表情の3人に、シオは何処から取り出したのか1冊の雑誌を見せる。



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