世界に零れた月の雫

□前章
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―西暦2050年―

当時、日本と呼ばれた小さな島国、とある地区の小さな孤児院、

「やーい、鬼さんこちら〜」

「ま、待てよー」


昼下がり、庭を駆け回るのは、10にも満たないであろう少年達

追いかけ回す少年が一人、逃げているのは日本国外の産まれとおぼしき少年二人、

やがて、どんっと人にぶつかったのは、鬼さんと呼ばれた少年、
「ったた…ごめ、んな、さ、、い…」
謝りながら、うつむく少年の反応も無理は無い。立っていたのは、全身を黒で覆った小柄な男、
真夏にも関わらず、フード付きの、ローブとでもいうのだろうか、とにかく黒ずくめの男が無言で少年をじっと覗きこんでいる。

少年がうつ向いてる間にスッ、と消える影、見れば施設の入口に向かって歩いていた。



その日の夜中、

孤児院は、極局所的な地震により、文字通りに消え去った…。

それは、住んでいた人間だけでなく、周りの記憶からも記録からも、完全に抹消されたのだ。


生き残ったのは、昼下がりに庭で駆け回っていた三人の少年。

少年達は、地震の数分前に、施設の外に運び出されていた。
眠る少年達を運び出したのは、黒ずくめの小柄な男…何かを喋っており、何処かと連絡を取っているようだ。
数分程度、何かを話した後、少年達を抱えた小柄な男は、淡い光を放つと、その光に呑み込まれるように消えた。






…………。







消えた男が現れたのは、円に不可思議な模様の描かれた一室だ。抱えていた少年達を降ろして、去っていく男、部屋を出ると1人の青年が立っており、青年の整った顔立ちは、やや不機嫌そうにも映るのだが…?









「…転移室にLU.LU.S(ルルス)候補を置いてある、処置と待遇は任せる」


「…僕に、、、か?」


廊下に静かに聞こえる話し声、低い声にあつらえたような威圧的な口調で命令しているのは、先程の小柄な男、答えているのは、薄い緑に水色と黒の絵の具を落としたような独特の軍服を纏う銀髪の青年だが、その爽やかそうな顔は、やや険しいままで、何かを探っているようにも見えるだろうか。

「あんた程のヤツが、ただのLU.LU.S候補を探しに行ったとは思えない…デルニエの特命か?」

不快感を込めた青年の質問にも答えないまま去っていく男、、、どうやら必要最低限の事しか喋らない質らしい。




、、そして、半年程が過ぎた頃――

「…これは…、、」

巨大なコンピュータや巨大なフラスコのような物、異形の化け物が幾つも何かの液体に浸けられ立ち並ぶ、実験室のような部屋、驚きの声を洩らすのは、白衣を着た男、施設の職員だろう。


「…ダルク=ダイモンが連れてくるだけの素体…という事か」


「…にしても、この数値は異常ですよ。他の二人はほぼ平均値なのに…」

自分なりに咀嚼(そしゃく)し、納得する銀髪の青年と、戸惑うばかりの職員とおぼしき者達、
視線の先に居るのは、異形の化け物達と同じように、液体に浸けられた三人の少年、…そう黒ずくめの小柄な男が連れてきた、三人の少年達だった。


「…何にせよ命令だ。それにどんな資質を持とうと、LU.LU(ルル)に変異出来なければ、それまでだ」





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