世界に零れた月の雫

□弐章
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―LU.LU.S transitus(ルルス・トランシトゥス)―

infantiaの一つ上の階級<クラス>であり、infantiaを終業した者達は例外なく、transitusの階級と成る。infantiaは、LU.LU.Sとしての適正を判断し、その基礎を刷り込む事が目的だが、transitusでは、体術・法術・LU.LU.Sの戦闘における知識など、戦闘に対する本格的な訓練を行う。

セデムターとの戦闘に対応出来るレベルと判断されるまでが期間であり、早い者なら、5年も掛からずに次の階級<クラス>に上がるが、遅い者だと、20年以上掛かる事もある。
transitus(トランシトゥス)‐羅語で[通過]の意‐の名の如くに、infantia(幼児)の時期を抜け、戦闘の術(すべ)を、身につける為の通過点である。









―2077年―

月が地上に落ちて5年、その大災害が、“Luna vinctura(ルーナ ウィンクトゥラ)”と呼称され、その呼び名が定着し始めた頃、この過程もinfantia同様にバベル内で行われるのが通例だが、初めての例外、LU.LU.S transitusの位階の者が、初めて地上の大地を踏みしめていた。





北半球では夏の様相を見せ始めた頃、ユーラシア南地区と中央地区の接続点‐旧インド北部‐、瓦礫と共に漠然と広がる大地と空の下に、統一軍の軍服を纏(まと)う、金の髪を風に遊ばせる美しい女性、アルテミス、そして、統一軍の軍服ズボン、上は肌にフィットするよう作られているらしいグレーの長袖シャツを着た黒髪で幼い少年

「ここがバベルの外、、すごい…」


感嘆といった様子で呟く少年を「こっちだよ」、と促すアルテミスは、保護者の如く、と言った所か。

広大な大地の片隅にポツンと存在する統一軍の基地、その正門入り口、アルテミスは慣れた様子で、手帳型の階級章‐LU.LU.Sに軍の階級は与えられないが、一律で三等尉官<少尉>の階級が記された手帳が配布される‐を見せ入所、明らかに場違いに映る少年は、好奇心からなのか、キョロキョロと挙動不審の様子でアルテミスの後をついていく。
傍目には、「母親の働き場所を初めて訪れた幼年」といった所だ。


基地施設に入った後も、キョロキョロと見回しては、「ガラスがありますよ」や「これ何ですか?」、等々、とりとめの無い言葉で埋め尽くす少年。好奇心旺盛なその姿は、幼い見た目通りとも言えるだろうか。



―――、
敷地を進む事、小1時間、辿り着いたのは最上階‐5階‐、中でも大きな両開きの扉の前だ。


「う〜…緊張するなぁ…」


心なしか、顔を強ばらせるアルテミスに対して、よく分かっていない様子の少年だったが、「失礼な事、言っちゃダメだよ。…ものすごく恐いって噂なんだから」、と言ったアルテミスの表情から、「ものすごく恐い」というのは伝わったのだろう、少年の顔にも緊張の色が伝染したようだ。


……コンコンコンコン。




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