世界に零れた月の雫

□参章
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―翌日、―
朝7時起床、7時半には食堂へ行き、グリンガム、カオルと朝食を取るのがアユムの日常だ。


特に何か話題があるわけでも、会話が弾むわけでもない静かな食事、はた目には、たまたま近くの席で、三者三様に黙々と食べている、というように映るが、アユム達には喋る気配も重い雰囲気もない。

彼らにとって、それが最も心地よい時間である事を誰が言わずとも知っているかのようだ。

真っ先に朝食を済ませるのは、三者の中で最も多い食事量のアユム、食事が終わる度にいつも「もっとよく噛んで食べないと」とグリンガムの注意が入るが、アユムは、あはは、と笑うだけで直すつもりは無いらしい。

続いて終わるのは、グリンガム少佐、彼女の場合は、その仕事量のため、早く食べないと仕事が間に合わないのだ。

少佐が食べ終わる頃には、既にアユムの姿は無い。いつもの修練場所である第2訓練室へと行き、カオルが来るまでに、掃除と準備を済ませておくのがアユムに課せられた訓練以外の職務だった。


掃除は訓練の無い日でも行うよう命じられているが、アユムは嫌がるよりも寧ろ、率先して行なっていた。
訓練が始まれば、カオルに向かっていき、一方的にボロボロにされるが、掃除の間は「汚れをやっつけれる」という、ちょっとした愉悦感に浸れる所にあるようだ。

アユムは掃除に対して、一種の楽しみか、或いは、唯一と言っていいストレス発散を見出だしているのかもしれない。
そのせいもあり、アユムの部屋は物が極端に少ない事を差し引いても、近くの部屋に住む軍人やグリンガム少佐が驚く程に、綺麗だった。
‐余談だが、週1の休日には、カオルの部屋を掃除整頓する、というのもアユムの仕事である。‐





カオルは食事を終えると一先ず、各部の士官に今日の予定を伝える。、と言っても、その書類を用意するのはグリンガム少佐であり、カオルはただそれを「めんどくさそう」に読み上げるだけである。

もっとも、カオルがそんな態度でも士気が下がる事は無く、それがカオルへの信頼から来るのか、逆に不安感から引き締まるのか、はたまた、事実上の監督者であるリンダ=グリンガム少佐に人気があるからなのか、カオルが仕事の殆どを押し付けている事を皆知っている故の同情からなのかは、定かではない。


そして、午前9時頃から、いつものように、アユムへの訓練‐いじめ‐が開始される。
もっとも、この日は、ある作戦における来客により、通常の半分程度しか、模擬戦は行われないのだが、アユムはそれを知らず、
カオルは、グリンガム少佐から前日に聞いていたにも関わらず、すっかりと、、、いや、うっかりと忘れていた。


アユムがそれを知り、カオルがそれを思い出すのは、午後の昼下がりだった。



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