世界に零れた月の雫

□肆章
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―第肆章 ‐百式‐―





LU.LU.Sとしての戦闘能力を本格的に開花させる為の訓練が開始されてから、カオルの宣言通り、それは激しさを増した。

一番の変化は、カオルの力加減が明らかに変化した事だった。以前までとは違い、翌日になっても傷や体力が回復しきらないまま、
満身創痍のアユムは、それでも必死に食らい付く。


前半の時間は、勁と呼ばれる生体エネルギーを表に引き出す為の訓練。

はた目には、立ったまま、じっとしているように見えるが、これは瞑想の一種のようなモノであり、
カオル曰く、「肉体の内側にある球体を自分の身体より大きくするイメージ」を持つのが基本らしい。


2週間以上が経ったこの日、アユムはその感触を初めて、実感する。
アユムの身体を覆う薄い気流のようなものの存在に、アユム自身が気付いたのは、それが顕(あらわ)れてから、1時間以上も後の事である。


「…これ、…?」


「やっと維持出来るようになってきたか、こいつは。
それが勁の第一段階、“展開”だ」


「てん、かい…」


白がかった淡い青の気流を身に纏(まと)うアユムの表情は、ただ驚いていた。
実際には、数日前から出来ていたのだが、体内のエネルギーは、それの扱いに慣れるまで、集中を切らせば途端に消えてしまうため、維持する事が難しい。


「本来、内側にあり、垂れ流れされる生命力、つまり勁の力を表に引き出し、垂れ流さないように留める状態を維持するのが、勁力の使用における基本。その第1段階が、“展開”だ。
肉体と空間、どちらにも勁が接する状態を作る事で、法術や体術等の力をより、空間に認知・定着させやすく……と、単純に言えば様々な攻撃防御の速度・精度・威力を向上させるって所だ。
勁の力を、[複数の展開]で以て、より強力に顕現させるのが勁の第2段階、“発勁”だ。
まぁ発勁が基礎ならこれは基礎の基礎って所だ、こいつがな」



「複数の展開…?」


「、物事には順序がある。今のお前は知らなくていい。それより、その[展開]を完全に会得する事が先だ、こいつが」


アユムの質問を遮るカオルに、アユムは、黙って頷くだけ。
寧ろ、その意識は、自身を包む気流に向いているようで、その心には、今の自分に発勁は無謀だと暗に言われている事を、それとなしに、理解しているのかもしれない。


「先ずは、展開<それ>を出来る限り長く続けろ。
飯の時、風呂の時、寝ている時、、、
その感覚を肉体が完全に覚え込むまで、意識せずに出来る所まで持っていけ。
強弱緩急、展開のエネルギー<流れ>を自在に操れるようになれ、こいつが」

カオルのそんな指示にも、ただ頷き、黙々と続けるアユム。そんなアユムに、「変わったな」と、カオルが切り出したのは、昼休憩の時間だった。



「、、え?」




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