世界に零れた月の雫

□伍章
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――
波打つ鼓動、、
早まる心音、、
緩やかに映る視界
、、


――
声が聞こえた気がした、

誰かの声、、


――
迫りくるセデムター
前だけじゃない、
後ろにも横にも、
身体は動かない、
いや動けない、、

身体に残るダメージ
それを振り払うように、
燃える肉体、


燃える我が身に気付くより早く
意識は途切れた――


「ヴ、、う゛ぁあああーーーーーーーーーーー!!!」






――





 ―第伍章 ‐欠片‐―






――
セデムターの断末魔が、所狭しとそこら中から溢れるのは、もう何日目か、ヒマラヤを北西に迂回するように谷道を進む、統一軍の一行。

重々しく積もる雪、岩肌は所々、月の欠片に侵食され、山道というよりは、岩道というほうが正しかろうか。季節は初冬を越えてきたほどで、雲が少し空を覆えば、情緒とは無縁の如くに雪の大群が襲い来る。

山の季節は平地より早く訪れる為に、幾ら浅瀬の山道と言えど、厳冬のそれに近い寒さだ。

もっとも、共に歩く少年は、灰色の厚手の服、リーダーとおぼしき、藍色に所々白いメッシュの髪をした男の軍服上着は、袖がなく、インナーも薄い七分袖のシャツ一枚、他の二人も、コート等の防寒具は着けておらず、上着と同じ模様のズボン<制服>から皆が統一軍の一員だと分かるだろうが、何も知らない者が見れば異様に映るだろう。




―、、
この日だけで、もう数十体になろうセデムターの残骸、初めて見るそれらに、当初は、ビビり通しだったアユムも、なんとか戦闘に参加出来る程になっていた。


「剛勁・破撃っ!」


使いなれた棒に勁力を込めて放たれるそれだが、アユムの力では、肉体の一部分をえぐるのが関の山であるため、驚異的な生命力を持つセデムターに通用しているとは言い難い。

まして、ユーラシア大陸の中央から東にかけては、他よりも強力なセデムターが、出没するとして、CREARE'Sの中でも、危険地域に指定される程だ。



アユムが振り返るより早く、バラバラに崩れ落ちるセデムター、
黒髪の大男、ガーヴァインの仕業だ。自身の巨躯に見合う程の巨大な槍で以て、バラバラにしたのだろう。

「…ガーヴさん、有難うございます」


礼を述べながらも、周りへの注意は怠らないアユムに、短く頷き、矛先を泳がせるガーヴァインは余裕そのもの。アレフは、元々が感情を出すタイプではないらしく、伺いしれないが、退屈、と取れなくもない。


自身の肉体を以て叩きつける肉弾を覚えてようやく、一撃を入れれるというレベル、アユムは確かな力不足を強く感じていた。


カオルは、彼らより後ろを進み、少し離れた所からアユム達を暇そうに眺めており、アユム達が進めばその分だけ進む、といった具合だ。
片手それぞれに煙草と蓋(ふた)付きの灰皿、、器用に大きめのトランクを灰皿と一緒の手にぶら下げており、中には煙草がぎっしりと詰まっているらしい。


カオルが後ろにいるのは、奇襲に備えての意味合い‐奇襲されて困るのはアユムだけなのでこちらの意味は低い‐。
もう一つは、引率として、いや検分としての役割だ。


カオル曰く、自分が戦闘に参加したら、3日で予定箇所が全て終わり、そうなると、折角のサボる口実が台無しになってしまう、
アユムを連れていくのは、足手まといを増やして、サボれる口実<日数>を増やす事にあった、アユムの実戦経験はそのついで、だそうである。



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