世界に零れた月の雫

□伍章
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―‐セデムター‐
移住者という意味の名で呼称される者共。

月が地上に落ちたルナ・ウィンクトゥラ以前には存在しなかった為に、移住者<セデムター>と呼ばれるが、虫のような者から、哺乳類、鳥類、爬虫類のような者達など、その種類種族は多種多様のようである。

共通項は、肉食の雑食で、時には、共食いもする。
大抵は異形だが、人語<言葉>を介する者もおり、
稀に人間に化けて人里を襲う者達もいるようだ。
また、海中に最も多く生息すると言われ、人間は、僅かに淡水で養殖出来る物以外は、魚介類が殆ど食せなくなった。

人も人里も極端に減ったこの世界においては、貴重なタンパク源として、食用に適した、哺乳類、鳥類、爬虫類系統と見られるセデムターは、食用としても討伐されるが、統一軍は間接的にしか関与はしない。





――

「今日で10日目か…」

そんなガーヴァインの呟きに、「まだ10日か、」と、うなだれるカオルは、余程、軍務をサボりたいらしい。

夜も更け、焚き火の中、食事を取る4者、食事は、討伐したセデムターの肉を煮たスープ。雪がそこら中にある為に、水には困らない。

吹雪が酷く数日ぶりの食事だったが、アユムの興味は食事よりも戦闘に向いているらしい。
足手まといになっている自分に気付く故に、どうすればもっと戦えるようになるのか、その事で頭がいっぱいなのだろう。



食事が済み、今日は夜通しで歩く事にした。アユム達が進行する目的地点に、明日の昼にも到着出来るだろう、そんな見込みと、天気が良く、アユムが吹雪で埋もれる事もないだろう、という判断からの行動だった。





――
夜明けの陽射しは、高い山々に中々顔を出せないでいるが、にわかに明るさを増していく。


と、その時だった。

山々からアユム達の居る谷に伸びる影、数十はいるだろうか、、同時に、山々に児玉する尋常ではない程の声量が放つ雄叫び、
明らかに昨日までのそれらより強い事を、皆が感じていた。


「さて、予想より早く着いたな、こいつは」と呟くカオルの表情は柔らかく、それでいて静かに殺気を放っており、そこに先程までの退屈そうな顔はない。


「ふん、、俺も少し身体を動かしておくか」

身構えるアユム達の前に出るカオルは、「準備運動にもならんだろうがな、」と付け足して、最も影の多い場所に一足飛びで突っ込んでいく。
「俺達も続くぞ」
短いアレフの号令に続くように駆け出す、アユムが少し遅れているが、上手くガーヴァインがフォローしており、それを承知してか、カオルもアレフも気にする様子は無い。


セデムターを置き去りにする程の突進だが、それ故に囲まれる。

「、パラド、レイバード様をよく見ておけ…「桁違い」ってのがよく分かる」

ガーヴァインの洩らしたそんな言葉に息を呑むアユム。周りのセデムターには、ガーヴァインが対応しているようで、アユムの視線はカオルを捉えて放さない。


「やれやれ、対多数の中距離戦は苦手なんだが、な、これが」

殺気を放つ微笑から静かに立ち止まったカオルに、襲いかかるセデムター達。
しかし異形達が怯むよりも速く、カオルはそれらを捉えていた。
瞬く間にセデムターの群れは散切れ崩れたのだった。正に一瞬、、いや刹那というべきだろうか。



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