世界に零れた月の雫

□陸章
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夜も更け始め、出発の時間、軍施設の一角にある短い塔のような建物、付き添いでカオルが、見送りにグリンガムが、それぞれアユムと共にその建物に入っていった。

基地から独立するかのようなその建物は、入ったそれが部屋の全容で、外観の長方形を卵型で丸く型抜きしたような、50uほどの広さを持つ楕円形の部屋だ。

先ず目に飛び込んできたのは、横一列、部屋の中央に均等に並ぶ3本の柱、左に赤、中央に白、右に青の柱で、柱はそれぞれ所々に鎖のようにも見える不思議な文字が印のように書かれている。

壁には地面から隙間なく伸びる赤、白、青の螺旋模様が描かれており、
その上に、三角、四角を組み合わせたような大小様々な幾何学模様が黒で描かれている。
中には、人間の世界でも有名な六芒星や五芒星、八芒星(2つの正方形を組み合わせた8つの頂点を持つ星形)があったり、端々にヘブライ語と思われる書き込みが、これも黒色で成されている事から、立体法陣のような役割を果たしていると思われる。


数十mはありそうな天井は、すりガラスのような緑の天井で、白と黒が規則正しく交互に描く波紋のような円、夜だというのに、灯りも無しに神秘的な、何とも言えない不思議な光を届けていた。
天井のそれは、ガラスではないようだが、発光性を持つ特殊な物質なのか、周りに張り巡らされた幾何学模様によって生み出された光なのかは、定かではない。



……
その神秘的な空間に息を呑むアユムは、表情の時間だけを止めてしまったかのように、キョロキョロと辺りを見回すものの、驚いているような呆けているようなその表情が変わる事はなく、グリンガムもアユムと全く同じ反応を見せている事から、グリンガムも初めてここに入ったのだろう。





「…美術観賞から本題に移っていいか?」
唯一、普段と変わらぬカオルが声をかけると、グリンガムは慌てた様子で頷いた。「もう少し、、」と言いかけた事を悟られないように。

アユムは聞こえていないのか、様子が変わる気配が無い…しびれをきらせたカオルが、アユムに蹴りをくれてようやく、現実に引き戻されたようだった。


「…アユム、先に渡しておく、俺からの手向(たむ)けだ、こいつが」

一段落に、訪れたプレゼント、1mほどの棒のようなそれ、
アユムが布袋を取ると金属製の槍が入っており、「お前なら、直ぐに馴染むだろう」と、言うカオルは淡々としたものだが、素っ気ない様は、照れ隠しなのかもしれない。


感慨深くその槍を握りしめるアユムだが、淡々としたカオルに応えるように、部屋の中央へと歩きだしていた。


月並みな別れをグリンガムに告げると、淡く光りはじめる部屋、
「いくぞ?」、短くアユムに声をかけたカオルの声を最後に、揺らめき、アユムとカオルの姿は光に包まれるように、消えた。


1人、取り残された恰好のグリンガムは、しばし仕事を忘れて、その部屋の神秘的な空気に浸っていたが、それを知る者は誰もいない。




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