世界に零れた月の雫

□漆章
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「――で、聞こえてくる噂は、どこまで本当なんだよ?」


「……本当を探すほうが難しい…初めての実戦なんて何にも通用しないし、ビビりっぱなしだったよ…」


ベイルの絡み話に、溜め息を交えて答えてやるアユムは、やれやれ、といった表情を殆ど変える事はない。

コロコロと変わる、褐色肌の表情がベイル、殆ど無表情で、何を考えているか分からない白肌のエギル、、幼い時から変わらないその役割分担に、やれやれと言った表情からアユムは、1人可笑しくなり、吹き出してしまった。

「んだよ、てめえ」


「いや、、悪い。…お前ら、本当に変わってないな、と思ってな」


「…まあ、確かに、、「俺のほうが身長高いしな!」」


………


ベイルとエギルの見事な重なりぶりに、思わず顔を見合わせる3者。


「何、真似してんだよ?」


「真似じゃなく事実だ。この3人じゃ俺が一番高い」

「身長が高けりゃ良いってもんじゃねえよ!」


「なら、一々、張り合うな」


(そういや、こいつら無駄に負けず嫌いだったな)

そんなアユムの心持ちを他所に、2人はヒートアップ、とばっちりを食らわぬ内に、と、アユムはこっそりと移動する事にした。
この時のアユムは、まだ気付いていない。アユムを後ろから狙い澄ましている小さな影に…。








――
「あ、、アルテミス」


「パラド君、おめでとう、今日からtrentaだね〜。
どんな気分?」

アルテミスは満面の笑みで語りかけるが、アユムに、変わる様子は特に無い。

「どうも何も、俺の部屋が個室って時点で想像ついてましたよ、、。
下っぱに変わりはないし、やる事は一緒ですから」


アユムの、平々淡々と言葉にアルテミスは、少しばかり肩を落としているようだが、
「…それより、アルテミス、、俺の部屋、今日から大丈夫なんですよね、、案内して欲しいんですけど、ダメですか?」

アユムが続けた言葉により、アルテミスが肩を落とす事は無かった。
が、アユムは当然、気付いていないだろう。

「ダメじゃないよ、今から?」

「はい、出来るだけ早く済ませたほうが、楽ですし」


うんうん、と上機嫌なアルテミス。アユムに疑問符が浮かんでいるのだが、気にする素振りはない。

「じゃあ、、」
そう言いかけた所で、不意にアルテミスの言葉が途切れる。いや、表情も固まっているだろうか。
少しざわつく場内にアユムが振り返ると、ざわめきの正体が立っていた。

「よ、パラドにアルテミス、相変わらず、仲良さそうだね」

「え、エ、エクア様…っ!
ああ、、これは、…はい、仲良くさせていただいてましまし…」


「、?…ましまし?」


エクアを見るなり、真っ赤になって、どもり始めるアルテミス。ただでさえ、会う機会の少ないquinque、エクアとは師弟だという事をそれとなしに聞いていたので、アユムも語尾以外をつっこむ気にはならなかったようだ。

寧ろ、カオルやダルクに会っても、ハキハキと喋っていたアルテミスがそこまで緊張するのか、という疑問符のほうが強かったようである。


「、相変わらず面白いね、アルテミスは、、
それはそれとして、パラド、後で良いんだけど、僕の部屋に来てくれるかな?
ドクター・ベラから渡すように頼まれている物があって、ね」


優男そのままの口調、にこやかな笑みを崩す事の無いエクアは、アユムの返事を待たずに、「じゃ、伝えたよ」と、あっさり去っていった。


「エクアさん、、何だったんだ…?」


「……」


惚(ほう)け気味のアルテミスと、疑問符のアユムは、どちらも似たような表情を浮かべていた。

その瞬間だった、小さな影がアユムに向かって一直線に、その背後から飛びかかってきたのは。



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