世界に零れた月の雫

□捌章
1ページ/19ページ



―――
西暦2100年代に入ると、少しずつではあるが、様々な事において、「当たり前」という概念が広がっていた。


その最たる一つが、統一政府の発行する通貨[ルク]であり、統一政府が本政府となって以降、少しずつ浸透したその通貨は、統一政府下にある、ほぼ全ての自治区で使用されるまでになっていた。


また、統一政府下の統一軍に以前から提携協力をしていた軍需企業スパイダー社もその活動を広げていた。

CREARE'S(クレアレス)に所属するLU.LU.Sの装備に関しても、スパイダー社が一部の開発研究を行なっており、様々な装備が登場する中でも、
勁力を流入する事で、特性を様々に変える事が可能な、やや大型の万能ナイフ[カレイドKFLS.10]、特殊な金属を用いて、布としての特性を強く持ちながら金属の剛性を備える全身用の外套[メタロスMFLS.03]等は、その利便性から、LU.LU.Sの標準装備となるほどであった。


他にもスパイダー社は、統一軍が産み出した、生態兵器<バイオアームズ>生産の委託を受けた事もあり、セデムターを狩る事を生業(なりわい)にする賞金稼ぎだけでなく、一般人にも護身用として販売するまでになっていた。
‐バイオアームズの成功型はLU.LU.Sであるため、厳密にはその「廃棄物」を利用した物となるが、一般の中にこれを知る者はいない‐






―――



―西暦2150年―




数名のLU.LU.Sが、その場には、居た。

転がるセデムターの死体は様々だった。ある異形は、バラバラに、ある異形は、真っ二つに、またある異形は、拳大の爆弾で弾ぜるように、急所が吹き飛んで倒れている。

中には、生き残ったまま、捉えられている異形<セデムター>もあるが、これら異形が自分の身体にも混じっている、そう思うだけでLU.LU.Sにも虫酸とやらが走る事はあるのだろうか…?


この時、この場で無事と言っていいセデムターは、5体、1人のLU.LU.Sを取り囲むが、それは最後の足掻きであり、取り囲まれたその男もそれをどことなく、察しているようでもある。


身をすっぽりと覆う薄汚れた浅茶の外套を身につけ、まだ少年と言っても差し支えない程度に、幼さを残した顔立ちの男、首に掛からない程度の黒い短髪だが、前髪は鼻先に触れる程度に伸びている。

少し長めの前髪を揺らし、静かに一体の異形に歩き始めるその男、布<外套>の切れ間から覗く右手には全長50cmほどの小さな剣を持ち、ゆっくりと進む。

後ろにいた2体の異形が、待ちきれないとばかりに、飛びかかるが、すんでの所、空中にその身体が止まった。
そして、そのLU.LUが振り返って直ぐに、バラバラになって、文字通りに崩れ落ちる、2体の異形、気付けば、その男が持つ剣は、持ち主の身長を超えるほどの大剣となり、残る3体をも瞬く間に、斬殺していた。
表情を変える事の無い、その男の名は、パラド=バーン、そう、アユムであった。


無表情とも取れるその表情は、どこか苛立っているようにも映り、自然と他のLU.LU.Sもあまり声を掛けられない様子を醸し出しているが、当人がそれを改める様子は無い。それを気にするだけの余裕が無いのだろうか?それすら気にかけていないのだろうか?


この場の部隊長に、報告の類いを任せて、さっさと、アトランティスのバベルに戻る事にしたらしい。
アユムは、本部基地に繋がる転移室がある軍施設へと、単身、空間転移で跳んでいった。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ