世界に零れた月の雫

□捌章
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バベルに戻ったアユムは自室に戻って、伸びてきた前髪をナイフで削ぎ落とすと、そのまま服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びていた。


それが終われば、備え付けの洗濯機に衣類とタオルを突っ込み回す。
その上部には、服の折りたたみ機能と服を入れる収納棚を兼ねる、かなり大型の乾燥機があるが、それの出番はもう少し後である。


慣れた手付きで、オイルライターの火を煙草にくれてやりながら、取り出したグラスには氷を無造作に入れ、ウィスキーを注ぐ。
ベッドと冷蔵庫を含めた収納棚以外には、殆ど何も無い部屋、
ベッドに腰掛けながら、煙草と酒を呑むアユムは、一人、物思いに耽っているようだ。


それは、sublimatum(スブリマトゥム)〜licentia(リケンテア)までのLU.LU.Sが集う会合を1週間後に控えている頃合いだった。




 ―第捌章 ‐兵器と存在意義‐―







1ヶ月近くは前になるだろうか、、
アユムは、エクアの部屋にいた。ソファに座るアユムは居心地が悪いのか、どこか険しい顔のまま、正面に座るエクアを見据えていた。


「…今日、呼んだのは、噂の事で、だ」


エクアは、表情こそ普段からの柔らかなそれだが、口取りは少し重く感じられる。それは言葉を選んでいるようでもある。


「…アルテミスの事、ですか…?」


「あぁ、、」


それは、少し前から下位階のLU.LU.Sの間で囁かれている噂、アルテミスと仲の良かったアユムには、先立って伝えておこう、というエクアの配慮でもあった。


「結論から言うよ、CREARE'Sは、2ヶ月前の任務より行方不明のアルテミス=オウルを状況廃棄、つまり死んだと断定した。1ヶ月後くらいに開かれる集会にて、trentaの序列変更と共にそこで発表される予定だ」


任務が終了したにも関わらず戻らないアルテミス、それ故に、LU.LU.Sの間でも、死んだという噂は、かなり広がっていたのだが、CREARE'Sはそれを肯定する形になった事を、エクアはそれを伝える為に、アユムを寄越したのだった。
、、、が、アユムからすれば納得出来るはずもなかったのだろう。


「嘘だ」


「…パラド」

「嘘だ。
アルテミスは生きてます。アルテミスは、俺よりもずっと強いんだ…死んだなんて嘘だ」


険しい表情のまま、エクアの言葉を否定するアユム。その言葉は、「信じない」ではなく、「信じたくない」という意思を強調するように。


「パラド=バーン、お前が何を言っても、CREARE'Sの出した事実だ。LU.LU.Sとして、それは、受け入れなければならない。、、分かるね?」


ゆっくりとなだめるエクアの表情は、変わらず柔らかなままのようだが、銀の髪が揺れて紅茶に口を付けるエクアは、どこか悩んでいるようにも見える。アユムをどう説得するのか、と考えているのだろうか?



「エクアさんは…」


「え?」


「エクアさんは、それで納得してるんですか!?
行方が分からないってだけで、死んだ事にされて…そんな訳の分からない事で、納得出来るんですか?」


この数年で珍しく感情を丸出しにしたアユム。
その様を見て、思わずなのだろうが、「ふっ」と吹き出し笑いをしたエクアにアユムは「何が可笑しいんですか!」と更に詰め寄った。


「いや、悪い…ちゃんと説明するから少し落ち着いて、な」


険しい表情のまま、渋々とソファに座り直すアユムの表情は、どこか困惑しているようにも見える。
それは、エクアの「説明」という言葉に引っかかりを感じての事だろう。



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