世界に零れた月の雫

□玖章
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アユムは機関に戻ると、地下にある制御区画へと入っていった。制御区画は、転移室と機関内の機械類のシステムを管理する制御室に加え、有事の際の対セデムター用の銃器や弾薬‐生態兵器の一種‐のある武器庫が管理されている区画であり、制御室には2名の職員が暇そうに計器類を映しているとおぼしき大量のモニターを眺めている。

アユムが入るなり、怯えるような、ギョッとした表情を見せるが、それも無理からぬ事なのだろう。LU.LU.Sの力をある程度知る人間ならば、それは畏怖の対象にしか映らないのだから。


「、パ、パラド、さん…どうしたんですか?」

「…報告だ。俺が頼んでた煙草とライターのオイル、武器庫に来てたんでな、貰っていく」


席を立って、萎縮気味な職員の反応はいつもの事、アユムは、告げるだけ告げると、去ろうとしたが、奇妙な感触を覚えた。それを確かめようと室内に踏み込むアユムの表情は固く、たじろぐ職員を余所に何かを探しているようにも見えるだろうか。

「おい、勁力の測定器はそれか?」

大量のモニタの下部、椅子が5脚並んでいる端の操作盤を指し、職員が頷くか否か、直ぐに操作を求めた。このようなアユムを見るのは初めてなのか、言われるがままに作業に移る職員は、どこか腑に落ちない様子で、疑問符が有り有りと浮かんでいる。
アユムは、周囲300km範囲での勁力測定を求めており、その事から、おそらくは、セデムターの反応か何かを自身のパワーレーダーが察知したのだろう。もっとも、計器に頼る事を考えても、その感覚に対する確信を持つには至らないようではあるが。


「…あ、、確かに反応があります。遠くて強さまでは分かりませんが、セデムターの反応のようです」


「この距離で引っかかるんだ。弱いはずは無い、方角と距離は?」


「…え、、はい、西南西に約230kmほどの…
「、転移室、使うぞ」


職員が言い終えるより早く、さっさと部屋を出ていくアユム、おそらくは向かうのだろう、出ていったアユムに対して、職員達がこぼしたため息は、安堵とも取れるだろうか。


「…はあ、なんだよ、、まったく…」


「ああ…でも、やっぱりすげえよなLU.LU.Sって、こんな遠くにいるセデムターの事まで分かるんだから」


「…そりゃ化物だからな。凄いに決まってるって」


「それもそうか」


アユムが居なくなった事に安堵した様子で雑談する職員達のそれは冷ややかだ。そして、アユムは、転移室へ行くとそこから一番近いであろう街の軍施設へと、空間転移するのだった。





 ―第玖章 ‐流れ始めた雫達‐―



アユムが降り立ったのは、南アマリカ西部中地区に存在する街、イキトス地区‐旧ペルー北部‐であった。
持ち場を離れたアユムは当然のように、軍人に引き止められるが、駐在のLU.LU.Sが来るよりも早く、その場を抜け出し、自身の感覚を頼りに街の外へと駆け出す。

どれくらいの距離かは分からないが、とにかく走った。それと同時に、ここに駐在しているLU.LU.Sは何なのかと思ったに違いない。それほどまでに、アユムが感じるそれは、強大なものだったのだ。
アユムの脳裏を過る影、「……嫌な記憶、だな…」、それを振り払うかのように舌打ちと呟きをこぼすアユムの表情は険しく閉ざされていた。




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