世界に零れた月の雫

□拾章
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夕食も終わり、食器の片付けになると、アユムが役に立つと知ったのは、リンにとっては、思いの外(ほか)、意外だったに違いない。前日は、アユムを待たせていたのだが、「違う」お礼を探していたアユムにとっても、都合が良かった。
かつてカオルの元で身についたモノが、意外な所で役に立つと、アユム自身、新鮮な気分も少しはあったのかもしれない。



「お前、GC<ギフトチャイルド>、ってヤツか?」

アユムがそんな問いかけをしたのは、片付けも終わりに差し掛かった頃の事、
一瞬、驚いた表情を浮かべていたリンだったが、直ぐに微笑みを作って、頷いた。


「私は出来損ないだけどね」
そう言って、寂しそうな笑みを覗かせたのだが、それも僅かな時間で、次に出てきた言葉は、アユムにお風呂に入るよう催促する言葉だった。残りはその間に済ませるという言葉に渋々、向かうアユムだったが、どこか腑に落ちない様子で、それは先程のリンの表情が気になっていたのかもしれない。




アユムがシャワーを済ませると、次はリンが入る。リンはお気に入りだという水玉のパジャマ、アユムの寝間着は変わらずバスタオルで、2人してベッドに入る時に、リンが顔を僅かばかり引きつらせたが、無言でそれを受け入れる事にした。
そう言えば昨夜、何もしない、という条件で、了解させたのだし、今更、床に寝ろというのも酷だという心理もあったのかもしれない。





―――
「まだ起きてる?、アユム、、、さん」


「敬称は無理に付けなくていい。LU.LUに寿命は無いからな」


「、、うん、、。私ね、ギフトチャイルドっていうのがよく分からないんだ。学校にも行けないし、なんでかなって…、、やっぱり出来損ないだから、なのかな」


暗闇で語られるリンの口調は静かで、どこか自嘲気味に感じられる。病院で検査というのも、おそらくはそれに関する事だろう。そこで、何かがあったにしても、アユムには、知る範囲で答えるしか無かった。いや、それしか知らない、というほうが、正確だろうか。


「、ギフトチャイルド。俺が知っているのは、人としての体系を維持しながら、限定的に法術みたいなモノを使える、という程度だな…。新しく法術を教えるより修得も早く、強力。限定的とはいえ、錬度によってはLU.LU.S並の能力<ちから>を発揮できるらしいから、賞金稼ぎをやる事が多い、というのは聞いた事がある。お前のは、おそらく地の元素に由来するモノだろう」


「…、うん、「固定空間の重力を限定的に操れる」らしいんだけど、よく分からないし、感情が昂った時しか発現しないみたいで、」


アハハ、と渇いた笑いをこぼすリンはやはり自嘲的で、どこか悲し気だ。アユムも、それには気付いているのだが、かける言葉が見当たらず訪れるのは沈黙。
耐えきれないように、タバコを手に取り火を着けるアユム、申し訳なさそうに小さな灯りを灯す火種の片隅に浮かぶリンの横顔は、どこか泣いているようにも見えた。


……


「いいんじゃないか?」

「、え?」

「出来損ないだろうが、お前が在る事は事実だ。学校ってのがどんなのかは知らないし、不満もあるんだろうが、リンの作るメシは美味い。少なくとも、俺にとっては、それで充分だ」


携帯灰皿でタバコの火を消しながら呟くアユムは、自分自身、何故、こんな言葉を使ったのかよく分かっていない。励ましているのかどうなのかは、分からないが、リンは誰にでもなく一言、「ありがとう」、と静かに呟いた。
照れ隠しのように、そっぽを向くゴソゴソとした音に、つい可笑しくなってクスクスと笑い、この日の夜は、昨日とは打って変わって静かに更けていった。



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