世界に零れた月の雫

□拾壱章
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―西暦2175年、
6月も終わりに差し掛かる頃、ワルシャワ地区街の外れには、数体のセデムターと男性数人の集団、セデムターではなく、人の側が異形を襲う。

食肉になるセデムターを狩る彼らこそ、賞金稼ぎであり、アサルトライフルのような銃器を以てセデムターを狩っている事から、スパイダー社が賞金稼ぎ用に作った武器<バイオ・アームズ>なのだろう。
もっとも、彼らのリーダー格は、銃器を持った男達ではなく、武器を持たぬ少年のようだ。


多少の怪我もあるようだが、なんとかセデムターを狩っていき、残るは1体、、熊のような大型の体格を持つ風貌をした異形、銃弾<バレット>も効き目が薄いのか、銃弾を撃ち込まれても僅かに怯むだけ、寧ろ、それによって興奮しているように伺える。

それの前に立ちはだかるのは、その集団のリーダー格とおぼしき160cmを越えている程度の黒髪の少年、他とは別格らしく危険な匂いを醸し出しているそれを睨み付けるや否や、その異形の身体、胸部に斜め十字の斬り傷が着いた。

鮮血の中、更に興奮したのか、より猛々しく雄叫びを上げる異形だったが、次の瞬間、少年と向き合っていた異形が横に吹き飛んだ。
呆気にとられる少年とその後ろで身構えている男達、先程まで異形が立っていた所には、4対、系8つもの車輪が着いた不思議な大型の単車、麻茶の外套を纏う青年と少女とおぼしき者らが、その単車に突っ伏せる形になっている。ぶつかった衝撃からだろうが、イタタタタ、と車体後部に乗っている少女が、顔を上げていた。

「ちょっと、ちゃんと運転し<避け>なさいよ!」

「まだ慣れてないんだから仕方ないだろ…」

起き上がった青年と口論を始める少女、怪我は無さそうだが、ケンカなどやっていられる状況で無い事は明白で、少年が、「早く逃げるんだ!」、そう声を荒げたが、雄叫びと共に起き上がった異形は、直ぐ様に突進してきた。狙いは自分にぶつかってきた黒い単車、――だが、異形の動きは突如として止まっていた。


「…ま、通り掛かったのも何かの縁、か…」


そう言いながら、動きの止まった異形に近づいていく青年、少しばかり土砂を巻き込むような凄まじい乱風が異形を包んでいるらしく、青年が近づいた時には、外套がめくれ上がり、グレーのシャツに幾らか裾を捲っているジーンズ、包帯を分厚く巻いた右腕が顕(あらわ)になった。――そして、、
少年は声を掛けるより早くその動きを止めた。

おそらく、この中でそれを目にしたのはこの少年だけだっただろう。腰元から引き抜き、凄まじい速度で放たれた3振りの刃、両足と首が包んでいた乱風によって離れ落ちると、静かに左手に握られたナイフを腰元にしまう青年。
驚きからいち早く我に還る少年は青年に向かって歩き始めるが、何が起きたのか理解出来ない他の者達は、ただ突っ立っているだけである。

「凄い速さの太刀筋だね…君も賞金稼ぎか?」


「…いや。名前はアユムだ、アユム…、?、…ナントカだ」

少年は名前など聞いていないのだが、それよりもアユムがちゃんと名乗れておらず、少年は、つい「ナントカ?」、と聞き返してしまっていた。
直ぐ様に、「「カイマ」でしょっ!」、とたしなめる少女に、「ああ、そうだった」、などと適当に相槌を打って、アユム=カイマ、リン=カイマ、と2人は名乗るのだった。
尚、アユムが、このタイミング、少年の話を殆ど置いた状態で何故、名乗ったのかは、不明である。



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