朱の烙印ーA cinnabar red brandー

□Butterfly of the noonー真昼の蝶ー
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長い夜が明ける――

深夜、レンナ先輩達の事が全校生徒に伝わった。
誰もが動揺を隠せずに、睡眠を取れた者は誰一人といないと思う。
オレ自身もそう。

でも、一番辛いのはきっと山村先輩だと思う。
先輩は体育館の隅で俯いて時折、レンナ先輩の名前を呟いては嗚咽を漏らしていた。


「山村先輩……」


名前の先は言葉が出ない。
何を言えばいいのか分からない――


「……はよ……」
「え?」
「朝、か……」


先輩の目元は真っ赤だった。


「何て顔してんだよ、姫路」


それ以外は、いつもと変わらない。


「あの……レンナ先輩の――」
「知るかよ!」

ゴス――
「がっ……」


先輩がオレの脇腹を蹴り上げた。


「その名前、二度と……口にすんな」


憤怒する先輩を初めて見た。
オレを殴った右手は赤く、左手は小刻みに震えていた。


「姫路くん、大丈夫?」
「滑って転んだみたいだから、大丈夫」


オレの代わりに先輩が答えた。


「本当に?」
「心配ないよ」
「そっか、良かった」
「……野嶋、どこかに行ってたのか?」


そう聞いたのは、野嶋の服が泥だらけだったから。
夜は、確か綺麗だった筈だ。


「レンナ先――」


言いかけた野嶋の口を手で塞ぐ。


「何?どうしたの?」
「何でもな――」
「レンナ先輩が寂しくないように花を植えてきたの」
「野嶋!」


野嶋を庇うように山村先輩を見る。


「ありがとう……」


先輩は泣いていた。


「こんな状況じゃ墓すら作れないよな……ありがとう……ありが……とうっ」


先輩がレンナ先輩を思う気持ちが痛い程伝わってくる……


「野嶋――」


オレも野嶋にお礼を言った。



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