読切

□ぼくと桜ちゃん
1ページ/2ページ




温かな風がぼくの背中を押したから、ぼくは立ちどまった。
……今度は風がぼくの頭をなでる。


「もう、なんだよ!」


怒って空を見上げる。


「こんにちは」


ぼくと同じくらいの女の子が桜の木の枝にすわっていた。
女の子は桜模様のワンピースを着てる。


「こ……んにちは」


ビックリしたぼくの声はひっくり返る。


「あははっ」
「な、なんだよぅ」


ぼくは急に笑われていることに恥ずかしくなった。


「ゴメン、ゴメン……なかなか気付いてくれないんだもん」
「悪いけど、ぼく急いでるから」
「待って!」
「離してよ――」
「ずーっと呼んでたんだよ」
「え……ぼくを?」
「うんっ」
「どうして?」
「……春になったから」
「知ってるよ、そのくらい!」
「桜の花が咲いてたのも?」
「し、知ってた!」


思わずウソついた。
だって、バカにされてるみたいでイヤなんだもん。


「素通りしたくせに」
「ぎくぅ」
「だから呼んだってわけ」
「えぇー!?」
「呼ばなかったら、今年は誰にも気付いてもらえない気がしたから……」
「どうして?」
「みんなが上を見ないから……」
「上……?」
「上には私が、桜がいる!木蓮くんだって、梅ちゃんだって……暖かい光が照らしてる!下は冷たくて暗い……私は今年もここにいるのに……っ」

そう言うと、女の子は泣き崩れた。


「……去年、舞い落ちる私に気付いてくれたおじさん……今年は早足、見向きもしない……ある人は地面に落ちた私を見向きもせず……踏んでいくだけ……今年は誰も――」
「キレイだね、桜……」
「え……?」
「なんか、きみに似てる気がするや」


急にココロがほかほかと温かくなる。
自然にぼくは笑っていた。


「……ありがとう」


女の子が目を閉じると、淡いピンク色の桜吹雪。


「わぁ……っ!」


その中から一輪の桜がふわりと舞い上がって、ぼくの手のひらに落ちた。


「もしかして、きみは――」


ふわり、桜がぼくの手のひらを飛び立っていく。
なんでかな?
スゴく嬉しそう!
ぼくまで嬉しくなる!

この日から、ぼくはときどき立ち止まって空を見上げるんだ。
また、きみに会える気がして。





ぼくと桜ちゃん....END....

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ